集団精神療法とは
集団精神療法(集団療法)とは、同じような課題を抱える人たちが集まり、治療者や参加者と課題について話し合うことを通してその課題の改善を図ろうとする心理療法です。
集団精神療法では、治療者との一対一の関係だけでなく、他の参加者との相互作用からも様々な効果が得られます。
集団精神療法の基礎を築いたのは、アメリカの精神科医ヤーロム(I.D.Yalom)です。
ヤーロムは、「集団が与える11の治療因子」を提唱しています。
ソーシャルワークの三大技術の1つ「グループワーク」と一緒だね。
セルフヘルプグループってあったよね。
集団療法の11治療因子
希望
集団内のメンバーを見て、自分もやっていけそうだという希望を感じられます。
普遍性(普遍的体験)
様々な人々と接することで「自分だけではない」という安心感が得られます。
情報の伝達
他のメンバーから自分に役立つ情報が得られます。
愛他主義(愛他的体験)
グループの誰かの役に立ち、喜ばれることで自尊感情を回復させます。
初期の家族関係の修正的繰り返し
現実の家族と異なる許容的なグループ内で受け入れられる体験を通し、過去の感情の陰に隠されていた別の感情に気づくことができます。
社会性
安心感のあるグループのなかで、疑似的な社会体験を得て成長することができます。
模倣行動
他のメンバーを模倣して自分の行動を考えることができます。
対人学習
グループのなかでのコミュニケーションにより、安全な対人関係が体験できます。
グループの凝集性
凝集性の高いグループにおいてコミュニケーションが活発化し、互いに強い影響を与え合います。
カタルシス
グループの中で受け入れられたと感じることで、奥底にしまっていた(ネガティブな)感情に直面し、それを語ることで癒されていきます。
カタルシスとは「浄化」という意味です。
実存的因子(実存的体験)
生きる意味や死といった人生の真実についてグループの中で探索することにより、次第に向き合っていけるようになります。
集団精神療法いろいろ
エンカウンターグループ
エンカウンターグループは、ロジャーズ(C.R.Rogers)がカウンセラーの養成のために始めた集団療法です。
エンカウンターグループでは、人間的成長と対人関係コミュニケーションの改善のために自由な交流を行います。
ロジャーズといえば来談者中心療法だね。
エンカウントとは出会うということ、RPGでモンスターと出会うことをエンカウントいうよね。
構成的なグループと非構成的なグループがあります。
構成的エンカウンター:リーダーから与えられた課題をグループで行う「エクササイズ」、その後グループでそれぞれが感じたことを言い合う「シェアリング」
心理劇(サイコドラマ)
サイコドラマは、アメリカの精神科医モレノ(J.L.Moreno)によって創案された集団心理療法で、演劇がもつ「観客にカタルシスを経験させる心理効果」を積極的に利用します。
形式的には主役(患者)、補助自我、観客、監督、舞台の5要素があり、患者は劇の主役で、補助自我の助けを借りて自らの課題や葛藤を即興劇として演じます。
補助自我は、演者を代弁したり支えたりする役割を担う人です。
セルフヘルプ・グループ
セルフヘルプ・グループは、自助グループ、当事者組織などとも呼ばれ、同じ課題を抱えている人たちが思いや体験を話したり聞いたりすることで悩みや苦しみを分かち合い自分らしく生きていく力を得ようという目的で集まるグループです。
例えば、犯罪被害者の会、薬物依存者の会、アルコール依存症患者の会などですね。
特に、指導者は持たず問題をかかえる当事者同士が集まり、何を話しても批判されないという状況のなかで発言し人の話に耳を傾けることによってセラピー効果を生み出します。
過去問
第2回 問111
I.D.Yalom らの集団療法の治療要因について、誤っているものを1つ選べ。
① 他者を援助することを通して、自己評価を高める。
② 他のメンバーを観察することを通して、新たな行動を学習する。
③ 集団との一体感を覚えることで、メンバー相互の援助能力を高める。
④ 現在と過去の経験についての強い感情を抑制することで、コントロール力を高める。
⑤ 他者も自分と同じような問題や悩みを持っていることを知り、自分だけが特異ではないことに気づく。
① 他者を援助することを通して、自己評価を高める。
正しいです。ヤーロムの11治療因子には、「愛他主義」がありました。
② 他のメンバーを観察することを通して、新たな行動を学習する。
正しいです。ヤーロムの11治療因子には、「模倣行動」がありました。
③ 集団との一体感を覚えることで、メンバー相互の援助能力を高める。
正しいです。ヤーロムの11治療因子には、「集団の凝集性」がありました。
④ 現在と過去の経験についての強い感情を抑制することで、コントロール力を高める。
間違いです。「強い感情を抑制する」という内容は含まれていません。
カタルシスと真逆の内容になっています。
⑤ 他者も自分と同じような問題や悩みを持っていることを知り、自分だけが特異ではないことに気づく。
正しいです。ヤーロムの11治療因子には、「普遍性」がありました。
第5回 問140
公認心理師A。台風の被害が出たため、災害派遣チームの一員として避難所を訪れ、心理教育を目的に講習会を開くことになった。Aは、被災によるストレスについて講義をした後、一部の参加者が残って自発的な話し合いをもった。ある人が、「洪水で流された家があるが、自分の家は浸水もしなかった。申し訳ない」と涙ながらに語った。別の人は、「自分の家は浸水したが、家族は無事だった。家族に不明者がいるという話を聞くたびに、自分も罪の意識を感じる」と語った。二人の発言を、皆はうなずきながら聞いていた。ここで生じているコミュニケーションについて、I.D.Yalomの集団療法の概念として、適切なものを1つ選べ。
① 普遍性
② 愛他主義
③ カタルシス
④ 情報の伝達
⑤ 希望をもたらすこと
選択肢③が正解だと思いましたが、どうも選択肢①が正解のようです。
第3回 問26
構成的グループエンカウンターの特徴として、最も適切なものを1つ選べ。
① グループを運営するリーダーを決めずに実施する。
② 参加者の内面的・情動的な気づきを目標としていない。
③ 特定の課題設定などはなく、参加者は自由に振る舞える。
④ レディネスに応じて、学級や子どもの状態を考慮した体験を用意できる。
⑤ 1回の実施時間を長くとらなくてはいけないため、時間的な制約のある状況には向かない。
① グループを運営するリーダーを決めずに実施する。
間違いです。グループのリーダーが構成したプログラムに沿って進められます。
② 参加者の内面的・情動的な気づきを目標としていない。
間違いです。参加者の内面的・情動的な気づきを目標とします。
③ 特定の課題設定などはなく、参加者は自由に振る舞える。
間違いです。リーダーがエクササイズと呼ばれる課題を設定します。
④ レディネスに応じて、学級や子どもの状態を考慮した体験を用意できる。
これが正解です。
⑤ 1回の実施時間を長くとらなくてはいけないため、時間的な制約のある状況には向かない。
間違いです。時間に合わせて構成できます。
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次は、フォーカシング指向心理療法についてです。
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