ピアジェの発達理論
同化・調節・均衡化
ピアジェ(J.Piaget)の発達理論では以下のキーワードを押さえましょう。
同化:外的現実を自己の活動の形態に取り込み、それを構造化すること
調節:外界に合わせてシェマを改変する過程
均衡化:同化と調節のバランスをとりながらシェマを構成していくこと
例えば、子どもが黒猫を見て「猫」と認識すると、「猫=黒い」というシェマを「同化」します。
そこに白猫が表れて「猫は黒だけじゃないんだ」と認識を改めること(シェマの改変)が「調節」です。
この「同化」と「調節」を繰り返しながらシェマを構成し「均衡化」していくこと(環境に適応していくこと)がピアジェの発達理論です。
ピアジェの発達理論は、シェマの発達によって4段階に分かれます。
発達の4段階
ピアジェの発達理論は、シェマの発達によって4段階に分かれます。
前操作期(2~7歳)
具体的操作期(7~11歳)
形式的操作期(11歳~)
読者の方から教えていただいた覚え方は、「ツナがイイ」=「27が11」です。
これで、0歳、2歳、7歳、11歳で区切られていることが覚えられます。
さらにツナ(27)は保存がきかないので、2歳~7歳の前操作期までは「保存性が未発達」であることも無理やり関連させて覚えましょう。
以下で見ていきましょう。
感覚運動期(0~2歳)
感覚運動期では、乳児が同化と調節によってシェマを作り出していきます。
「モノが見えなくなっても存在し続ける(対象の永続性)」というシェマを獲得します。
母親の「いないいないばあ」で、顔が見えなくなっても存在し続けるということを学ぶわけですね。
さらに、模倣行動や繰り返し行動もこの時期の特徴です。
前操作期(2~7歳)
前操作期では、言語の習得によって概念的な思考が可能になりますが、この時期の特徴は「自己中心性」です。
自己中心性は、いわゆる「ジコチュウ」と言われる自分の事しか考えないことではなく、自分視点でしか物事を見られないことです。
かくれんぼをしていて、頭隠して尻隠さず状態になってしまうのも自己中心性によるものです。
この自己中心性により、保存の概念が理解できず、例えば水を大きなコップから小さなコップに入れ替えても量は変わらないのに、見た目で変わっていると思ってしまいます。
これは自分視点でしか水を見られないことに起因し、「保存性の未発達」と呼ばれます。
ツナは保存できないので前操作期(2~7歳)では保存性が未発達ということです。
次の具体的操作期(7~11歳)では保存性を獲得します。
アニミズム的思考も自己中心性によるものです。
さらにこの頃には、象徴機能の発達によって現実にないモノを他のモノに置き換えて表現するようになります。
「ふり遊び」や「ごっこ遊び」が見られるようになります。
具体的操作期(7~11歳)
具体的操作期では、「脱自己中心性」を達成し、「保存の概念」を獲得します。
形式的操作期(11歳~)
形式的操作期では、抽象的な概念操作による論理的思考ができるようになります。
ピアジェの発達理論は、大人が持つべき論理的・合理的思考を、子どもがどのような段階を踏んで身に付けていくのかを描いたものです。
ヴィゴツキーの発達理論
高次精神機能
ヴィゴツキー(L.S.Vygotsky)の発達理論では、以下のようなキーワードが出てきます。
外言(精神間機能):他人に話す言葉、音声を伴う発話
内言(精神内機能):考えるための言語、心のなかの発話
子どもは、母親等とのコミュニケーション(外言)によって「精神間機能」を発達させ、それを自分自身への問いかけなどの心の発話(内言)によって「精神内機能」へ転化させることで、高次精神機能としての思考を行うようになると考えました。
このように、ピアジェが論理的思考が可能になる経過として発達過程を説明したのに対し、ヴィゴツキーは社会・文化・歴史的に構成された人間関係や文化的対象を獲得していく過程として発達を捉えました。
発達の最近接領域
ヴィゴツキーに関して忘れてはいけないキーワードとして、「発達の最近接領域」があります。
彼は、子どもの知的発達を、「自分でできる水準」と「自分ひとりではできない水準」に分けました。
さらに「自分ひとりではできない水準」を、「支援があればできる水準」と「支援があってもできない水準」に分けました。
そして前者の「支援があればできる水準」を「ZPD(Zone of proximal development):発達の最近接領域」と名付けました。
つまり、子どもの発達を支援するには、「自分ひとりでできる水準」や「支援があってもできない水準」にアプローチするのではなく、「支援があればできる水準(発達の最近接領域)」にアプローチすることが重要だということです。
エリクソンのライフサイクル論
エリクソン(E.H.Erikson)に関しては以下の記事を参照してください。
8つの発達段階をしっかり覚えましょう。
エリクソンと言えば、青年期のアイデンティティの確立ですが、アメリカの心理学者のジェフリー・アーネット(J.J.Arnett)は青年期でも成人期でもない新しい発達段階が現れたとして18歳から29歳までを成人形成期(emerging adulthood)と名づけました。この時期の特徴は不安定さで、就職したり離職したり実家を出たり戻ったり恋人を変えたりすることが繰り返されます。そしてアイデンティティの探求が行われます。
過去問
第1回 問89
J. Piaget の発達理論について、正しいものを1つ選べ。
① 外界に合わせてシェマを改変する過程を「異化」という。
② 「具体的操作期」になると、速度、距離、時間など変数間の数量的な関係が理解できるようになる。
③ 「自己中心性」とは、何事も自分中心に考える幼児期の利己的な心性を表し、愛他心の弱さを特徴とする。
④ 積木をサンドイッチに見立てて食べるまねをするような「ふり遊び」は、表象の能力が発達する幼児期の後半から出現する。
⑤ 水を元のコップよりも細長いコップに入れ替えると液面が高くなるが、幼児期の子どもは水の量自体も変化したと考えてしまう。
① 外界に合わせてシェマを改変する過程を「異化」という。
間違いです。シェマとは「情報処理の枠組み(ものごとの捉え方)」のことです。
外界に合わせてシェマを改変する過程を「調節」と言います。
② 「具体的操作期」になると、速度、距離、時間など変数間の数量的な関係が理解できるようになる。
間違いです。具体的操作期ではまだできません。その後の形式的操作期になればできます。
③ 「自己中心性」とは、何事も自分中心に考える幼児期の利己的な心性を表し、愛他心の弱さを特徴とする。
間違いです。自己中心性には「利己的な」という意味合いはなく、自分の視点から見て相手の立場を想像できないことをいいます。
④ 積木をサンドイッチに見立てて食べるまねをするような「ふり遊び」は、表象の能力が発達する幼児期の後半から出現する。
間違いです。「ふり遊び」「ごっこ遊び」は、2歳頃からの前操作期における「象徴機能の獲得」によって出現します。
⑤ 水を元のコップよりも細長いコップに入れ替えると液面が高くなるが、幼児期の子どもは水の量自体も変化したと考えてしまう。
正しいです。幼児期の子どもには「保存の概念」が発達していないため、このように考えます。
第3回 問37
L. S. Vygotsky の発達理論に含まれる概念として、不適切なものを1つ選べ。
① 内言
② 自己中心性
③ 精神内機能
④ 高次精神機能
⑤ 発達の最近接領域
選択肢②が正解です。「自己中心性」はピアジェの発達段階に含まれる概念で、前操作期(2~7歳頃)に見られる特徴です。
第1回 問15
E. H. Erikson のライフサイクル論について、最も適切なものを1つ選べ。
① 人の生涯を6つの発達段階からなると考えた。
② 成人期前期を様々な選択の迷いが生じるモラトリアムの時期であると仮定した。
③ 青年期を通じて忠誠という人としての強さ又は徳が獲得されると考えた。
④ 各発達段階に固有のストレスフルなライフイベントがあると仮定し、それを危機と表現した。
⑤ 成人期後期に自身の子どもを養育する中で、その子どもに生成継承性が備わると考えた。
① 人の生涯を6つの発達段階からなると考えた。
間違いです。8つの発達段階です。
② 成人期前期を様々な選択の迷いが生じるモラトリアムの時期であると仮定した。
間違いです。モラトリアムの時期は「青年期」です。
③ 青年期を通じて忠誠という人としての強さ又は徳が獲得されると考えた。
これが正解です。
④ 各発達段階に固有のストレスフルなライフイベントがあると仮定し、それを危機と表現した。
間違いです。各発達段階には発達課題があり、それに対する危機があると仮定しました。
⑤ 成人期後期に自身の子どもを養育する中で、その子どもに生成継承性が備わると考えた。
間違いです。成人期後期に自身の子どもを養育する中で、生成継承性が課題となると考えました。
第1回(追試)問137
40歳の男性A、会社員。仕事でいくつも成果を上げ、大きなやりがいを感じている。部下へのアドバイスやサポートも惜しまず、人望がある。一方、家庭では息子の学業成績の不振や生活態度の乱れに不満を持ち、厳しく注意したり威圧的にふるまったりすることから、それに反発した息子と言い争いになることが多い。最近、息子はAと顔を合わせることを避け、自室に引きこもるようになった。E.H.Erikson のライフサイクル論におけるAの発達課題(危機)として、最も適切なものを1つ選べ。
①自律性 対 疑惑
②親密性 対 孤立
③信頼性 対 嫌悪
④勤勉性 対 劣等感
⑤生成継承性〈世代性〉 対 停滞
①自律性 対 疑惑
間違いです。これは幼児期前期です。
②親密性 対 孤立
間違いです。これは成人期前期です。
③信頼性 対 嫌悪
これはどの時期でもありません。
④勤勉性 対 劣等感
間違いです。これは児童期です。
⑤生成継承性〈世代性〉 対 停滞
これが正解、40歳が該当する成人期後期です。
第4回 問72
53歳の女性A。
元々軽度の弱視がある。
大学卒業後、管理栄養士として働いていたが、結婚後、出産を機に退職し、その後、職にはついていない。
2年前に1人娘が就職し一人暮らしを始めた頃から、抑うつ的になることが増え、体のほてりを感じることがしばしばあり、頭痛や倦怠感がひどくなった。
また、これから何をして良いか展望が持てなくなり、不安な状態が続いていた。
しかし最近、 かつての仕事でも趣味でもあった料理を、ボランティアで、20歳から30歳代の女性らに教える機会を得て、彼女らとの会話を楽しみにするようになっている。
Aのここ数年来の心身の状態として該当しないものを1つ選べ。
① 更年期障害
② 空の巣症候群
③ アイデンティティ危機
④ 生成継承性 generativity
⑤ セルフハンディキャッピング
① 更年期障害
正しいです。「身体のほてり」「頭痛」「倦怠感」という身体症状、「抑うつ的」「不安な状態」など更年期障害と思しき症状が見受けられます。
② 空の巣症候群
正しいです。空の巣症候群は、子どもが自立して親の手を離れる時期に、親が経験する心身の不適応状態を指します。
③ アイデンティティ危機
正しいです。「これから何をしてよいのか展望が持てなくなり」とあります。
④ 生成継承性 generativity
正しいです。「かつて仕事でも趣味でもあった料理を、ボランティアで20歳から30歳代の女性らに教える機会を得て、彼女らとの会話を楽しみにするようになっている」とあります。
⑤ セルフハンディキャッピング
誤りです。セルフハンディキャッピングは、前もって言い訳や不適切な行動をすることで結果を正当化しようとすることです。
第5回 問90
J.J.Arnett が提唱した発達期として、正しいものを1つ選べ。
① 若者期(youth)
② 超高齢期(oldest-old)
③ ポスト青年期(post adolescence)
④ 成人形成期(emerging adulthood)
⑤ 成人後期移行期(late adult transition)
選択肢④が正解です。
第1回 問31
生後6か月ごろまでの乳児が示す発達的特徴について、不適切なものを1つ選べ。
① 対面する他者の視線方向を目で追う傾向がある。
② 目鼻口が正しい場所にある顔図形を選好する傾向がある。
③ 他児の泣き声を聞くと、つられるように泣き出すことがある。
④ 曖昧な状況で養育者の表情を見てからその後の行動を開始するようになる。
⑤ 目の前で舌を出す動作を繰り返し見せると、同じような顔の動きをすることがある。
選択肢④が正解です。「社会的参照」と呼ばれます。社会的参照は1歳前後からです。
次の記事
次は、乳幼児期の成長について。
赤ちゃんカリスマ登場します。
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