MMPI(Minnesota Multiphasic Personality Inventory)は1943年、ミネソタ大学のハサウェイ(S.R.Hathaway)とマッキンリー(J.C.McKinley)によって作られた性格検査法です。
性格検査は、このMMPIが出るまでは投影法による検査が盛んでしたが、MMPIは質問紙法による検査です。
投影法といえば、ロールシャッハテストとかバウムテストとかPFスタディとか・・・
投影法では本人の語り等を解釈するため客観性という点で疑問符がつきますが、質問紙法であればより高い客観性は担保できます。
検査方法
550もの質問数があり、検査には1時間以上はかかるでしょう。
回答は「はい」・「いいえ」・「どちらでもない」の3件法で答えますが、「どちらでもない」が10個以上あると以下の妥当性尺度にひっかかります。
こんなにたくさんの質問があるのは、なかなか他にありません。
一時間くらいかかるでしょう。
妥当性尺度(4個)
MMPIで特徴的なのは、4種類の妥当性尺度です。
この妥当性尺度によって検査結果が妥当かどうかを見積ります。
心理検査で重要なのは、信頼性と妥当性です。
?尺度(疑問尺度)
この尺度は「どちらともいえない」と答えた項目の数を表し、これが多い場合は妥当性が疑わしくなるため判定の中止や再検査を検討する必要があります。
L尺度(虚偽尺度)
「L」はウソ(Lie)を表し、被験者が自分を好ましく見せようとすることによって起こる反応の歪みを調べます。
虚偽尺度には驚きました。私が受けたとき、結果をよく見せようとして偽りの選択肢ばかり選んでいたら虚偽尺度にひっかかりました。
F尺度(頻度尺度)
「F」は頻度(Frequency)を表し、一般的に出現率の低い回答をした数を表します。
これが多いと「でたらめに回答した」「よく読まないで回答した」ために矛盾が多くなり、回答に一貫性がないとして信頼性が低いとなります。
K尺度(修正尺度、対処尺度)
「K」は修正(Correction)を表し、自己に対する評価や検査に対する警戒の程度を見積もれます。
この値が高いほど自己防衛の態度が強く、自分の心理的問題を認めようとしない傾向となります。
Kがなんで「Correction」なのー、たぶん音だけ。
まとめ
?尺度が高いと妥当性が疑わしくなるため判定の中止や再検査を検討する必要があります。
その他、以下のような例があります。
妥当性尺度 | 援助を求める叫び | よく見せかけている受験態度 |
---|---|---|
?尺度(疑問尺度) | – | – |
L尺度(虚偽尺度) | 低 | 高 |
F尺度(頻度尺度) | 高 | 低 |
K尺度(修正尺度) | 低 | 高 |
臨床尺度(10個)
MMPIには以下の10個の臨床尺度が定められています。
第1尺度(Hs):心気症(hypochondriasis)
自分の健康状態について過度に気にして悩む傾向。
心気症については以下のページも参考に。
第2尺度(D):抑うつ(depression)
抑うつは、意欲低下、罪悪感、低自尊心、気分障害など
第3尺度(Hy):ヒステリー(hysteria)
ヒステリーは、未熟性格、自己洞察不足、身体症状、転換性障害など
第4尺度(Pd):精神病質的偏倚(psychopathic deviate)
精神病質的偏倚は、反社会行動を起こしやすい傾向
第5尺度(Mf):男子性・女子性(masculinity-femininity)
伝統的な性役割取得の程度、性役割の柔軟性
第6尺度(Pa):パラノイア(paranoia)
パラノイアは、疑心など妄想をもちやすい傾向
第7尺度(Pt):精神衰弱(psychasthenia)
精神衰弱は、強迫神経症の指標
第8尺度(Sc):統合失調症(schizophrenia)
統合失調症は、奇妙な行動、幻覚妄想、異常な思考の傾向
第9尺度(Ma):軽躁病(hypomania)
軽躁病は活動性、高得点ほど活動的
第0尺度(Si):社会的内向性(social introversion)
社会的内向性は、社会的接触を好まない傾向
まとめ
臨床尺度 | 内容 | 高得点 | 低得点 |
---|---|---|---|
第1尺度(Hs) | 心気症(hypochondriasis) | 体調不良を訴え、他者を操作する | 楽天的 |
第2尺度(D) | 抑うつ(depression) | 抑うつ的 | 社交的 |
第3尺度(Hy) | ヒステリー(hysteria) | 身体症状による責任回避 | 萎縮し、過剰適応 |
第4尺度(Pd) | 精神病質的偏倚(psychopathic deviate) | 非社会的な言動と敵意 | 受動的、同調的 |
第5尺度(Mf) | 男子性・女子性(masculinity-femininity) | 男性:女性的で主張が乏しい女性:女性らしさにこだわりがない | 男性:自身がなく、男らしさにこだわる女性:女性らしさにこだわる |
第6尺度(Pa) | パラノイア(paranoia) | 猜疑心や独善傾向が強い | 適応的あるいは対人的に過敏 |
第7尺度(Pt) | 精神衰弱(psychasthenia) | 緊張感・不安感が強い | 情緒が安定し、自分に満足している |
第8尺度(Sc) | 統合失調症(schizophrenia) | 奇妙で風変り、疎外感が強い | 現実的 |
第9尺度(Ma) | 軽躁病(hypomania) | 活動性が高い | 楽天的 |
第0尺度(Si) | 社会的内向性(social introversion) | 内向的 | 社交的 |
追加尺度
追加尺度は臨床尺度を補足する尺度で、様々な追加尺度が開発され、精神病理の査定に使用できる追加尺度、葛藤に関する追加尺度、予後に関する追加尺度、パーソナリティパターンの測定に関する追加尺度など、数百以上もあります。
代表的な追加尺度として、「MAS(顕在性不安尺度)」があります。
MAS(Manifest Anxiety Scale)は1953年テイラー(J.A.Taylor)がMMPIから50項目を選出し、顕在性不安尺度として発表したものです。
日本版MASはこの50項目に、妥当性L尺度15項目を加え65項目により構成されています。
解釈
MMPIでは回答からT得点を求めます。
このT得点は、追加尺度と臨床尺度それぞれで点数化(平均が50点)し、折れ線グラフに表します。
例えば以下の表のように、第1尺度、第2尺度、第3尺度が高い得点の場合は、「神経症的傾向」と解釈できます。
MMPIは「現状」を見るもので、「性格特性」という普遍的なパーソナリティを測定するものではありません。
臨床尺度 | 内容 | 例1「神経症的傾向」 | 例2「精神病的傾向」 |
---|---|---|---|
第1尺度(Hs) | 心気症(hypochondriasis) | 高 | |
第2尺度(D) | 抑うつ(depression) | 高 | 高 |
第3尺度(Hy) | ヒステリー(hysteria) | 高 | |
第4尺度(Pd) | 精神病質的偏倚(psychopathic deviate) | ||
第5尺度(Mf) | 男子性・女子性(masculinity-femininity) | ||
第6尺度(Pa) | パラノイア(paranoia) | 高 | |
第7尺度(Pt) | 精神衰弱(psychasthenia) | 高 | |
第8尺度(Sc) | 統合失調症(schizophrenia) | 高 | |
第9尺度(Ma) | 軽躁病(hypomania) | 高 | |
第0尺度(Si) | 社会的内向性(social introversion) |
上記の他、ゴールドバーグ指標とばれる以下の指数があります。
「(L+Pa+SC)-(Hy+Pt)」40以上で精神病的傾向、30以下で神経症的傾向。
過去問
第1回 問109
MMPI(ミネソタ多面的人格目録 Minnesota Multiphasic Personality Inventory)について、誤っているものを1つ選べ。
① MASは、MMPIの項目から作成された。
② 妥当性尺度とは、?尺度、L尺度、F尺度及び K尺度の4つを指す。
③ 質問項目は550項目あり、実施時間は1時間以上を見込む必要がある。
④ 質問項目は、患者群と非患者群との間の統計的有意差を基に作られている。
⑤ 心気症、抑うつ、緊張などの各傾向を測定する 20個の臨床尺度から構成される。
① MASは、MMPIの項目から作成された。
正しいです。
② 妥当性尺度とは、?尺度、L尺度、F尺度及び K尺度の4つを指す。
正しいです。
③ 質問項目は550項目あり、実施時間は1時間以上を見込む必要がある。
正しいです。
④ 質問項目は、患者群と非患者群との間の統計的有意差を基に作られている。
正しいです。
⑤ 心気症、抑うつ、緊張などの各傾向を測定する20個の臨床尺度から構成される。
間違いです。臨床尺度は10個です。
第3回 問90
MMPIの実施と解釈について、正しいものを1つ選べ。
① 各質問項目には、5件法で回答する。
② 追加尺度は、20尺度開発されている。
③ F尺度は、心理的防衛の高さを示している。
④ 第5尺度(Mf)は、性別により解釈基準が異なる。
⑤ 第0尺度(Si)と第7尺度(Pt)が90の場合は、精神的混乱状態と解釈できる。
① 各質問項目には、5件法で回答する。
間違いです。「はい」「いいえ」「どちらでもない」の3件法です。
② 追加尺度は、20尺度開発されている。
間違いです。追加尺度は20どころか100以上開発されています。
③ F尺度は、心理的防衛の高さを示している。
間違いです。これはK尺度の内容です。F尺度は回答の一貫性を表します。
④ 第5尺度(Mf)は、性別により解釈基準が異なる。
正しいです。男性の場合と女性の場合で分かれていました。
⑤ 第0尺度(Si)と第7尺度(Pt)が90の場合は、精神的混乱状態と解釈できる。
間違いです。第0尺度(Si)が90のような高い値の場合は「内向的」、第7尺度(Pt)が90のような高い値の場合は「緊張感や不安感が強い」となります。
精神的混乱状態とは言えません。
第1回(追試)問73
22歳の女性A、大学4年生。
アルバイトや就職活動で疲弊し、試験勉強がまったく手につかないとAは学生相談室を訪れ、公認心理師に訴えた。
Aは涙を流しており、事実関係は整理されておらず、混乱した様子であった。
公認心理師とはほとんど視線を合わせず、うつむいたままであった。
ベック抑うつ性尺度では、中等度のうつという結果が出された。
MMPIの結果は、ほとんどの臨床尺度のT得点が60を超えていた。
妥当性尺度は、?尺度=0、L尺度=30、F尺度=90、K尺度=40であった。
これらの情報からの判断として、最も適切なものを1つ選べ。
① Aは防衛が強く、問題の程度が低く現れている。
② 一貫性のある回答が多く、素直に回答している。
③ 社会的望ましさの回答が多く、検査の結果が歪曲されている。
④ 精神的苦痛を誇張しているため、全体の得点が高くなっている。
① Aは防衛が強く、問題の程度が低く現れている。
間違いです。K尺度=40と低いため、防衛が強いとは言えません。
② 一貫性のある回答が多く、素直に回答している。
間違いです。F尺度=90と高いため、一貫性のある回答をしているとは言えません。
③ 社会的望ましさの回答が多く、検査の結果が歪曲されている。
間違いです。L尺度=30と低いため、社会的望ましさの回答が多いとは言えません。
④ 精神的苦痛を誇張しているため、全体の得点が高くなっている。
F尺度=90と高いため、でたらめな回答や故意に悪く見せようとしたという可能性が考えられます。
そのうえでほとんどの臨床尺度が60を超えているという点を考えると、苦痛を誇張している可能性が示唆されます。
ということでこれが正解です。
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次は、同じ質問紙法の性格検査である「YGPI」について。
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