心理物理学(精神物理学)は、ドイツのライプチヒ大学の物理学教授であったフェヒナー(G.T.Fechner)によって開発された、心と身体の依存関係を調べる学問です。
弁別閾
心理物理学では、外的な刺激と内的な感覚の対応関係を測定し、定量的な計測をします。
例えば、痛くない注射針を研究開発したい場合、注射したときに痛いと感じる注射針の太さの弁別閾(閾値)を定量的に計測します。
弁別閾とは「変化したことがわかる最小の値」のことです。
例えば、注射針の直系が1.00mmなら痛くないけど、1.01mmなら痛いと感じたとき、弁別閾は0.01mmということになります。
別の例では、例えば100gの重りがあって、101g、102g、・・・と増やしていったときに、重さの違いを認識できるのが103gからとなったときに、100gの弁別閾は3gとなります。
フェヒナーの法則(ヴェーバー・フェヒナーの法則)
先ほどの重りの例では、100gの弁別閾は3gでしたが、200gではどうでしょう。
結論としては、200gの弁別閾は6gになります。
つまり比例していくわけです。
このような、刺激の弁別閾が基準となる基礎刺激の強度に比例するという法則を「フェヒナーの法則」といいます。
弁別閾の実験方法
弁別閾はどのような実験で測定するのでしょう。
極限法
極限法は、強度が小さい刺激から順番に呈示し、反応が変化した点を探ることで閾値を求める方法です。
極限法には、所要時間が比較的短く容易に実施できるというメリットがありますが、刺激を連続的に呈示するため、慣れによる誤差が生じるというデメリットもあります。
このような誤差を反応バイアスといいます。反応バイアスとは、想起バイアスや報告バイアスとも呼ばれ、被験者が過去のことを思い出す際の正確性の違いによって生まれる誤差(反応の偏り)のことです。
階段法
段階法は、強度が小さい刺激から順番に呈示し、被験者の反応が変化した際には呈示順序を反転させる手法です。
刺激を連続的に呈示するため、期待誤差、系統誤差が生じる可能性があります。
調整法
調整法は、被験者が自分でダイヤル等の装置を使い、刺激の強さを調整できる状態で刺激の閾値を測る方法のことです。
被検者によって刺激が強いと感じる閾値が違うため、反応バイアスが現れます。
恒常法
恒常法は、段階法や極限法のように刺激を小さい順に提示するのではなく、基準となる刺激とそれに変化を加えた刺激をランダムに提示し、その刺激の程度を選択式で答えさせていく方法で、その正答率によって刺激を弁別できているかどうかを測定します。
刺激をランダムに呈示することで、期待誤差、系統誤差、被験者による結果の調整を統制することができます。
恒常法の中でも、「はい」か「いいえ」、真か偽か、などの二肢選択式で測定する方法を「二肢強制選択法」といいます。
二肢強制選択法では二択を強制しますので、反応バイアスによるデータの誤差がなくなることを目指します。
一対比較法
一対比較法は、被験者に刺激を2つ提示し、その刺激について評価や選択をさせ、刺激の主観的価値を測定する方法です。
例えば10個のモノのランキングをつけたいとき、1対ずつ比較すれば順位を決めやすいです。
人間の感覚的判断以外に計測法がないような分野で用いられるため、反応バイアスは出やすいです。
マグニチュード推定法
マグニチュード推定法とは、基準となる刺激を与え、続く刺激が基準に対してどの程度かを推定させる方法です。
例えば、ある音を聞かせて、それに続く音がどの程度かを答えます。
基準の刺激を思い出す時に、反応バイアスが出やすくなります。
過去問
第1回 問82
心理物理学の実験において、反応バイアスを含まない測定を目指す方法として、最も適切なものを1つ選べ。
① 極限法
② 調整法
③ 一対比較法
④ 二肢強制選択法
⑤ マグニチュード推定法
選択肢④が正解です。
第1回(追試)問7
コントラストの知覚についての心理測定関数を得て、そこから弁別閾や主観的等価点を推定するための心理物理学的測定法として、最も適切なものを1つ選べ。
① 階段法
② 極限法
③ 恒常法
④ 上下法
⑤ 調整法
選択肢③が正解です。
第3回 問9
100gの重さの知覚における弁別閾を測定したところ10gであった。
このときに予測される400gの重さの知覚における弁別閾として、正しいものを1つ選べ。
① 2.5g
② 10g
③ 13.01g
④ 20g
⑤ 40g
正解は選択肢⑤です。100gの弁別閾が10gなので110g以上で重くなったと感じられるということです。フェヒナーの法則によりこの弁別閾は比例しますので、400gの弁別閾は40gとなります。
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次は、認知心理学に入っていきます。
まずは、行動経済学でも扱われるプロスペクト理論から。
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