田中ビネー知能検査はウェクスラー式知能検査と並んで日本でよく用いられる知能検査です。
フランスのビネー(A.Binet)が世界で初めて知能検査法を開発し、1947年に日本の田中寛一がその検査をもとに「田中ビネー知能検査」を発刊しました。
その後2003年に改訂された「田中ビネー知能検査Ⅴ」が現在では広く用いられています。
療育手帳の判定などで用いられますね。
経緯
1905年、フランスのビネーは、世界初の知能検査を開発します。
当時のパリの教育委員会は、学校で知能程度が大体等しい児童を集めて学級を編成すれば教育する上で効果が上がるのではないかと考えて、その方法を考案するようにビネーに委嘱しました。
そこで、ビネーとシモンは、普通教育に適する子どもとそうでない子どもを見分けるためのスクリーニング検査としての知能検査を作り上げました。
1916年、ターマン(L.Terman)は、ビネー式知能検査を改良し「スタンフォード・ビネー改訂知能検査」として発表しました。
1947年、日本でも田中寛一がビネー式知能検査をもとに「田中ビネー知能検査」を発刊しました。
・1905年 フランスのビネーが世界初の知能検査を開発
・1947年 日本の田中寛一が「田中ビネー知能検査」を発刊
・2003年「田中ビネー知能検査Ⅴ」
特徴
田中ビネー式知能検査は、多角的な総合検査であり一般知能を測定します。
知能は因子に分かれた様々な能力の寄せ集めと捉えるのではなく、1つの総合体として捉えます。
そして、最大の特徴は「年齢尺度」が導入されていることです。
つまり、検査された知能指数IQが何歳の人の平均と同じかという年齢による尺度を採用しています。
1歳級から13歳級までの問題(96問)、成人の問題(17問)があります。
13歳以下だけでなく成人も検査を受けられるのですね。
検査方法
まず、子どもの生活年齢(実年齢)と等しい年齢級の問題から検査を始めていき、一つでも正解できない課題があった場合には年齢級を下げて下限を特定し、全課題をパスできた場合には上の年齢級に進んで上限を特定します。
このような検査によって「精神年齢MA」を特定し、精神年齢と生活年齢の比である「知能指数IQ」を算出します。
このように13歳以下では、精神年齢から知能指数を算出するするのですが、14歳以上の場合はそもそも「精神年齢」の概念が有用ではないため、精神年齢を算出せず偏差知能指数DIQを算出します。
精神年齢は知能の発達を簡便に把握することができ、偏差知能指数は同年齢グループの中でどの程度の発達レベルに位置するのかを把握することができます。
また、14歳以上では「結晶性」「流動性」「記憶」「論理推理」の4分野についてそれぞれ偏差知能指数を算出することができます。
ビネー式 vs ウェクスラー式
ビネー式知能検査では、発達が早いか遅いかという精神年齢だけで知能を評価します。
一方でウェクスラー式知能検査では、知能を「知的な諸機能の複合」と捉えて評価します。
ビネー式知能検査 | vs | ウェクスラー式知能検査 |
---|---|---|
2歳以上 | 対象 | 幼児用、児童用、成人用 |
13歳以下:精神年齢MA/暦年齢CA=知能指数IQ 14歳以上:偏差知能指数DIQ |
IQ | 偏差知能指数DIQ |
「結晶性」「流動性」「記憶」「論理推理」 | 検査分野 | 「言語理解」「作動記憶」「知覚統合」「処理速度」 |
過去問
第2回 問130
田中ビネー知能検査Vの実施と解釈について、正しいものを2つ選べ。
① 2歳から18歳11か月まで適用が可能である。
② 生活年齢CAより1歳低い年齢級の課題から検査を始める。
③ 13歳以下では、精神年齢MAから知能指数IQを算出する。
④ 各年齢級の問題で1つでも合格できない問題があれば、下の年齢級に下がる。
⑤ 14歳以上では「言語理解」、「作動記憶」、「知覚統合」及び「処理速度」の4分野について、偏差知能指数DIQを算出する。
① 2歳から18歳11か月まで適用が可能である。
間違いです。成人も対象です。
② 生活年齢CAより1歳低い年齢級の課題から検査を始める。
間違いです。生活年齢と同じ年齢級の課題から検査します。
③ 13歳以下では、精神年齢MAから知能指数IQを算出する。
正しいです。2~13歳は精神年齢から知能指数を算出します。
14歳以上は原則として精神年齢を算出せず、偏差知能指数を算出します。
④ 各年齢級の問題で1つでも合格できない問題があれば、下の年齢級に下がる。
正しいです。全問正解すれば上の級に上がります。
⑤ 14歳以上では「言語理解」、「作動記憶」、「知覚統合」及び「処理速度」の4分野について、偏差知能指数DIQを算出する。
間違いです。14歳以上では、「結晶性」「流動性」「記憶」「論理推理」の4分野で偏差知能指数DIQを算出します。
設問の「言語理解」「作動記憶」「知覚統合」「処理速度」の4分野は、どこかで見たことがあると思ったら、ウェクスラー式知能検査の4指標です。
第2回 問4
普通教育に適する子どもとそうでない子どもを見分けるための検査法を最初に開発した人物は誰か、正しいものを1つ選べ。
① A. Binet
② D. Wechsler
③ E. Kraepelin
④ F. Galton
⑤ J. Piaget
ポイントは、普通教育に適する子どもとそうでない子どもを見分けるための「スクリーニング検査」という点と、「最初に開発した」という点です。
① A. Binet
これが正解、ビネーは世界初の知能検査を開発した人です。
日本では田中・ビネー式知能検査として知られています。
② D. Wechsler
間違いです。ウェクスラーはウェクスラー式知能検査を開発した人です。
ビネー式知能検査と対比されますが、ビネー式はスクリーニング検査、ウェクスラー式はより深い質を評価する検査になっています。
③ E. Kraepelin
間違いです。クレペリンは内田クレペリン作業検査のクレペリンです。
内田クレペリン作業検査法はクレペリンが開発したのではなく、クレペリンの連続加算法を内田勇三郎が取り入れて独自に考案した心理検査です。
④ F. Galton
間違いです。イギリスのフランシス・ゴルトンはダーウィンのいとこにあたり、知能には遺伝的要因が大きいとして、人間の素質に関する学問である「優生学」を提唱しました。
ゴルトンといえば、正規分布の「誤差曲線」や「相関係数」が有名です。
相関係数の測定方法を最初に開発し、相関関係と因果関係の違いはゴルトンが概念化しています。
⑤ J. Piaget
間違いです。ピアジェといえば、発達理論ですね。
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次も、知能検査の1つ「KABC-Ⅱ」です。
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