社会的抑制(社会的手抜き)
ラタネ(B.Latané)とダーレー(J.M.Darley)は、社会的抑制(社会的手抜き)に関する研究を行っています。
社会的抑制は、他者の存在によって行動が抑制されることで、例えば、集団で協同作業を行うと一人あたりの作業量が人数が多くなるほど低下する傾向があります。
私などは、大勢で拍手するときは、手抜きして音をほとんど立てずに拍手してます・・・
これも社会的抑制(社会的手抜き)ですね。
そして、社会的抑制の例として傍観者効果があります。
傍観者効果
1964年アメリカで若い女性が襲われ、30分もの間、多くの隣人が助けを求める彼女の叫び声を聞いたのに、誰も助けることなく殺害されました。
なぜこのようなことが起こったのでしょう。
ラタネは、この事件のように困っている人の周囲に多くの人がいるのに誰も助けようとしない現象を「傍観者効果」と名付けました。
一般には、傍観者の数が増えるほど、また、自分より有能と思われる他者が存在するほど、援助行動は抑制されます。
傍観者効果の原因は以下の3つです。
・責任の分散
・集合的無知
・評価懸念
責任の分散
責任の分散とは、「自分がしなくても誰かが行動するだろう」と考えることです。
大勢の人がいればいるほど、そのように考えがちです。
集合的無知(多元的無知)
集合的無知は、自分は賛成していないにもかかわらず「きっと他の人たちはそうした行動に賛成しているのだろう」と、その集団内の多くの人が思い込む状態を表します。
傍観者効果の原因としての集合的無知は、「周囲の人が何もしていないのだから緊急性を要しないだろう」という誤った判断です。
これはまさに「裸の王様」のことです。
王様は裸だと自分では思っていても、周囲の人がそうではないと思っているのだろうと思い込む状態です。
コロナ禍で大勢の人が外出自粛をしていると、自分は必要ないと思っていても、大勢の人は外出自粛に賛成しているのだろうと思い込むことですね。
オールポートは「多元的無知」という言葉を使っています。
評価懸念
評価懸念は、「行動を起こして失敗したら・・・」という懸念です。
緊急時の意思決定モデル
ラタネとダーレーは傍観者効果の研究を通して、緊急事態での介入までの意思決定過程を示しました。
このモデルによれば、援助を行うことを決断するまでに以下5段階のプロセスを経ていきます。
②それが緊急事態であるという認識
③援助するのは自分の責任であるという認識
④援助方法を自分は知っているという認識
⑤援助を行うことの決断
大勢の人がいると、傍観者効果によって「援助するのは自分の責任」という認識が沸き上がるまでに時間がかかりますね。
社会的インパクト理論
ラタネは、社会的抑制などの現象を社会的インパクト理論で説明しようとしました。
この理論は、他者の存在が、個人の遂行行動に与える影響を定式化しようとする考え方です。
個人が受ける社会的インパクトは、影響源である他者の強度(地位や社会的勢力)、他者との直接性(時間的、空間的な接近)、他者の人数の相乗効果として定義されます。
社会的促進
社会的促進は、集団で行う方が個人で行うよりも優れた成績を収めるという現象です。
社会的抑制の逆の概念ですね。
例えば、トリプレット(N.Triplett)は、自転車のレースや釣竿のリール巻きの作業を、1人でするよりも他者と一緒にする方が成績が良くなることを示しました。
この実験は社会心理学最古の実験で、1898年に行われています。
みんなでやるとやる気がでて作業効率が上がるよね。
過去問
第2回 問13
多くの人がいると、一人のときにするはずの行動が生じなくなる傾向に関連する概念として、正しいものを1つ選べ。
① 社会的促進
② 集合的無知
③ 集団極性化
④ 情報的影響
⑤ 傍観者効果
これは社会的抑制の中の「傍観者効果」のことですので、選択肢⑤が正解です。
傍観者効果が起こる原因の1つとして選択肢②「集合的無知」があります。
第1回(追試)問85
B.LatanéとJ.M.Darleyの理論による緊急時の援助行動までの以下の1から5の意思決定過程の順序について、正しいものを1つ選べ。
1 何か深刻な事態が生じているという認識
2 自分に助ける責任があるという認識
3 事態が危機的状況であるという認識
4 どうやって助ければよいかを自分は知っているという認識
5 援助しようという決断
① 1→2→3→4→5
② 1→2→4→3→5
③ 1→3→2→4→5
④ 1→3→4→2→5
⑤ 1→4→2→3→5
選択肢③が正解です。事態が危機的状況であることを認識したら、次は「自分に助ける責任があるという認識」が必要です。
傍観者効果で、なかなかここに至りませんから。
第4回 問11
集団や社会の多くの成員が、自分自身は集団規範を受け入れていないにも関わらず、他の成員のほとんどがその規範を受け入れていると信じている状況を指す概念として最も適切なものを1つ選べ。
① 集団錯誤
② 集合的無知
③ 集団凝集性
④ 少数者の影響
⑤ 内集団バイアス
① 集団錯誤
間違いです。集団錯誤は、集団がメンバー個々の心理を超えて固有の心性をもつことを想定するのは幻想にすぎないという見解のことです。
② 集合的無知
これが正解です。
③ 集団凝集性
間違いです。集団凝集性は、集団メンバーを集団に留まらせる力のことです。
④ 少数者の影響
間違いです。少数者の影響とは、集団内で少数しか持たない意見が多数者の意見に影響を与えることです。
⑤ 内集団バイアス
間違いです。内集団バイアスとは、自分の所属する集団をひいき目に見てしまうバイアスのことです。
第1回 問14
集団思考に関する説明として、正しいものを1つ選べ。
① 集団内で同調圧が高いと感じるときに生じやすい。
② 集団意思決定の質は個人による意思決定に比べて優れている。
③ 集団構成員間の親密性が低いとき、思考や発言が抑制されやすい。
④ 集団で課題を遂行すると、一人当たりの成績は単独で遂行するときよりも低下する。
⑤ 緊急時に援助できる人が自分以外にもいる場合、自分しかいない場合より援助行動が抑制されやすい。
① 集団内で同調圧が高いと感じるときに生じやすい。
これが正解です。
② 集団意思決定の質は個人による意思決定に比べて優れている。
間違いです。集団思考による意思決定には問題ありです。
③ 集団構成員間の親密性が低いとき、思考や発言が抑制されやすい。
間違いです。集団構成員間の親密性が高いときに、思考や発言が抑制されやすいです。
④ 集団で課題を遂行すると、一人当たりの成績は単独で遂行するときよりも低下する。
間違いです。これは「社会的手抜き」の内容です。
⑤ 緊急時に援助できる人が自分以外にもいる場合、自分しかいない場合より援助行動が抑制されやすい。
間違いです。これは「傍観者効果」の内容です。
第3回 問102
社会的勢力は、組織や集団の目標を実現するためのリーダーの影響力の基盤となる。
このうち、メンバーがリーダーに対して好意や信頼、尊敬を抱くことで、自らをリーダーと同一視することに基づく勢力として、正しいものを1つ選べ。
① 強制勢力
② 準拠勢力
③ 正当勢力
④ 専門勢力
⑤ 報酬勢力
選択肢②「準拠勢力」が正解です。
次の記事
次は、社会心理学で扱う様々なヒューリスティックと認知バイアスについて。
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