これまで知能検査、遂行機能検査、記憶障害検査、など様々な検査手法を見てきました。
実はこれらは1つのカテゴリーに属します。
それは「高次脳機能」です。
高次脳機能には、知能、言語力、記憶力、遂行機能、注意力、認知機能などがあります。
これら高次脳機能に関する検査は「神経心理学検査」と呼ばれます。
これまでの検査を振り返りながら、これまで出てこなかった言語検査、注意力検査、認知機能検査について詳しく見ていきます。
知能検査
これまでいろいろ見て来た知能検査も「神経心理学検査」の一種、つまり高次脳機能の検査なんですね。
認知症検査
知能検査の一種でもある認知症検査も、神経心理学検査になります。
記憶検査
遂行機能検査
器質的脳障害検査
神経心理学検査で忘れてはならないのが、このベンダー・ゲシュタルト検査です。
この検査では、心理的障害、パーソナリティ傾向、知能的側面など様々な内容を評価できますが、その中でも気質的脳障害がわかるという点は、まさに高次脳機能の検査です。
言語検査
SLTA(標準失語症検査)
SLTA(Standard Language Test of Aphasia)は、失語症の代表的な検査法です。
「聴く」「話す」「読む」「書く」「計算」の5分野について以下の計26項目の下位検査で構成されます。
項目 | 下位検査 |
---|---|
聴く | 単語の理解、短文の理解、口頭命令に従う、仮名の理解 |
話す | 呼称、単語の復唱、動作説明、まんがの説明、文の復唱、語の列挙、漢字単語の音読、仮名1文字の音読、仮名単語の音読、短文の音読 |
読む | 漢字単語の理解、仮名単語の理解、短文の理解、漢字命令に従う |
書く | 漢字単語の書字、仮名単語の書字、まんがの説明、仮名1文字の書取、漢字単語の書取、仮名単語の書取、短文の書取 |
計算 | 計算 |
注意力検査
日本高次脳機能障害学会が長い年月をかけて開発した注意力と意欲を測る検査、それがCATとCASです。
脳卒中や脳外傷などの脳損傷を被った患者に対する注意検査や意欲検査として用いられます。
CAT(標準注意検査法)
CAT(Clinical Assessment for Attention)は7つの下位検査でできています。
・数唱(Digit Span)
・視覚性スパン(Tapping Span)
②抹消検出課題(Cancellation and Detection Test)
・視覚性抹消検査(Visual Cancellation Task)
・聴覚性検出課題(Auditory Detection Task)
③SDMT(Symbol Digit Modalities Test)
④記憶更新検査(Memory Updating Test)
⑤PASAT(Paced Auditory Serial Addition Test)
⑥上中下検査(Position Stroop Test)
⑦CPT(Continuous Performance Test)
CAS(標準意欲評価法)
CAS(Clinical Assessment for Spontaneity)は5つの下位検査でできています。
②質問紙法による意欲評価スケール
③日常生活行動の意欲評価スケール
④自由時間の日常行動観察
⑤臨床的総合評価
キャッテル不安診断検査(CAS)と混同しないように。
認知機能検査
認知機能検査は、高次脳機能障害の中でも総合的な検査です。
認知機能を評価する3つの検査を見てみましょう。
DN-CAS 認知評価システム
DN-CAS(Das-Naglieri Cognitive Assessment System)は、ダス(J.P.Das)博士とナグリエリ(J.A.Naglieri)博士が作った、5歳0か月~17歳11か月の子どもの認知処理過程を評価する検査です。
CASと言えば、標準意欲評価法(Clinical Assessment for Spontaneity)やキャッテルの不安検査(Cattel Anxiety Scale)もCASなので混同しないように。DN-CASの「C」はCognitive(認知)、CASの「C」はcattell(キャッテル)です。
検査基盤にLuriaの神経心理学モデルから導き出されたJ. P. Dasによる知能のPASS理論を用いており、4つのPASS尺度(プランニング、注意、同時処理、継次処理)と認知機能全体の指標となる全検査尺度を算出します。
PASS理論は以下の4つの認知機能(PASS)から子どもの発達を捉えます。
A(Attention):注意
S(Simultaneous):同時処理
S(Successive):継次処理
LDやADHD、高機能自閉症等の子どもたちに見られる認知的偏りを捉えることができます。
Luria-Nebraska神経心理学バッテリー
ルリア・ネブラスカ(Luria-Nebraska)神経心理学バッテリーは、DN-CASの基盤となるPASS理論の大元である「Luriaの神経心理学モデル」に基づく検査手法です。
運動、リズム、触覚、視覚、受容性言語、表出性言語、書字、音読、算数、記憶、知能、中期記憶の12尺度を検査することで、脳損傷のタイプ、程度、部位などが評価できます。
もともと15歳以上の成人用として開発され、その後、8~12歳の小児用が開発されました。
BACS(統合失調症認知機能簡易評価尺度)
BACS(The Brief Assessment of Cognition in Schizophrenia)はアメリカのキーフ(R.S.Keefe)らによって開発された統合失調症による認知機能障害を検査する手法です。
以下の6つの検査があります。
・ワーキング・メモリ(作動記憶)
・運動機能
・注意
・言語流暢性
・遂行機能
上記の6項目でわかるように、高次脳機能全般に関する検査になっています。
まとめ
DN-CASは子供用、Luria-Nebraska神経心理学バッテリーは成人用から開発され子供用も開発されました。
BACSは同じ認知機能検査ですが、特に統合失調症の認知機能検査であることを覚えておきましょう。
分類 | 種別 | 検査名 |
---|---|---|
神経心理学検査 | 知能検査 | ウェクスラー式知能検査 |
田中ビネー式知能検査 | ||
KABC-Ⅱ | ||
コース立方体組み合わせテスト | ||
認知症検査 | HDS-R | |
MMSE | ||
記憶検査 | WMS-R | |
RBMT | ||
遂行機能検査 | WCST | |
BADS | ||
言語検査 | SLTA | |
注意力検査 | CAT | |
CAS | ||
認知機能検査 | DN-CAS | |
Luria-Nebraska神経心理学バッテリー | ||
BACS | ||
器質的脳障害検査 | ベンダー・ゲシュタルト検査 |
過去問
第1回(追試)問138
4歳の男児 A、幼稚園児。
2歳頃、単語が話せない、他児への興味を示さない及び視線が合いにくいという症状のため受診したがその後通院はしていない。
数字が大好きで数字用のノートを持ち歩くなど、自分なりのこだわりがある。
状況の変化には混乱して泣いたりすることが多いが、親が事前に丁寧に説明するなどの対応をとることで、A も泣かずに我慢できる場面が増えてきた。
公認心理師がAの支援をするにあたって、担当の幼稚園教諭からのAの適応状況に関する情報収集とAの行動観察に加え、Aに実施する心理検査として、最も適切なものを1つ選べ。
① HDS-R
② WISC-Ⅳ
③ 田中ビネー知能検査
④ DN-CAS 認知評価システム
⑤ ベンダー・ゲシュタルト検査
事例から自閉スペクトラム症の疑いが濃厚です。
① HDS-R
間違いです。HDS-R(改訂長谷川式認知症スケール)は、認知症検査です。
② WISC-Ⅳ
間違いです。WISC-Ⅳの対象は5歳~16歳11か月なので事例の対象ではありません。
③ 田中ビネー知能検査
これが正解です。知的能力の把握のため田中ビネー知能検査を実施します。
対象は2歳から成人なので4歳の男児Aに適用できます。
④ DN-CAS 認知評価システム
間違いです。DN-CASの対象は5歳0か月から17歳11か月なので事例の対象ではありません。
⑤ ベンダー・ゲシュタルト検査
間違いです。ベンダー・ゲシュタルト検査は、器質的な脳障害を把握する検査です。
パーソナリティや様々な障害も把握できます。
第2回 問16
神経心理学的テストバッテリーについて、正しいものを1つ選べ。
① 各心理検査は、信頼性が高ければ妥当性は問われない。
② Luria-Nebraska神経心理学バッテリーは幼児用として開発された。
③ 固定的なバッテリーの補完としてウェクスラー式知能検査が用いられる。
④ 多くのテストを含む固定的なバッテリーが仮説を検証するために用いられる。
⑤ 可変的なバッテリーでの時計描画テストは、潜在する気分障害を発見するために用いられる。
① 各心理検査は、信頼性が高ければ妥当性は問われない。
間違いです。心理検査は信頼性と妥当性が担保されていることが必要です。
妥当性が高いと信頼性も高くなりますが、信頼性が高くても妥当性が高いとは言えません。
② Luria-Nebraska神経心理学バッテリーは幼児用として開発された。
間違いです。Luria-Nebraska神経心理学バッテリーは成人用として開発されました。
③ 固定的なバッテリーの補完としてウェクスラー式知能検査が用いられる。
正しいです。
④ 多くのテストを含む固定的なバッテリーが仮説を検証するために用いられる。
間違いです。「固定的なバッテリー」は主にパターン分析をするために用いられ、「可変的なバッテリー」は主に仮説を検証するために用いられます。
⑤ 可変的なバッテリーでの時計描画テストは、潜在する気分障害を発見するために用いられる。
間違いです。時計描画テストは、気分障害ではなく「認知機能障害」を発見するために用いられます。
第1回 問137
26歳の男性A、会社員。
Aは仕事上のストレスが原因で心理相談室に来室した。
子どもの頃から忘れ物が多く、頑固だと叱られることが多かった。
学業の問題は特になかった。友人はほとんどいなかったが、独りの方が楽だと思っていた。
就職した当初はシステムエンジニアとして働いており、大きな問題はなかった。
しかし、今年に入って営業部に異動してからミスが増え、上司から叱責されることが多くなった。
Aは「皆がもう少しゆっくりやってくれたら」と職場への不満を口にするが、「減給されるので仕事を休む気はない」と言う。
Aに実施するテストバッテリーに含めるものとして、最も適切なものを1つ選べ。
① BACS
② MMSE
③ STAI
④ WAIS-Ⅲ
⑤ 田中ビネー知能検査Ⅴ
事例より、Aは自閉スペクトラム症やADHDなどの発達障害の可能性があります。
① BACS
間違いです。BACSは統合失調症の認知機能検査です。
② MMSE
間違いです。MMSEは認知症の検査です。
③ STAI
間違いです。STAIは不安検査です。
④ WAIS-Ⅲ
これが正解です。WAISは知能検査ですが、発達障害検査としてよく用いられます。
⑤ 田中ビネー知能検査Ⅴ
間違いです。田中ビネー知能検査は知的障害検査として用いられます。
次の記事
ここまでで、性格検査、発達検査、神経心理学検査を見てきました。
次は、自閉スペクトラム症やADHDに関する「発達障害検査」について。
コメント