高次脳機能障害といえば、遂行機能障害、注意障害などがありますが、その中でも「記憶障害」についての検査を2つ覚えましょう。
WMS-R(ウェクスラー記憶検査)
WMS-R(Wechsler Memory Scale-Revised)は、あの有名なウェクスラー知能検査のウェクスラーによる、世界的に最もよく使用されている総合的な記憶検査です。
16歳0か月~74歳11か月を対象とし、言語を使った問題と図形を使った問題で構成され、13の下位検査があります。
記憶の要素を「言語記憶」「視覚記憶」「一般的記憶(言語性と視覚性を統合したもの)」「注意集中」「遅延再生」の5つの指標で表現できます。
下位検査 | 指標 | 検査内容 |
---|---|---|
情報と見当識 | 一般的な知識についての質問 | |
精神統制 | 注意集中 | 数字の逆唱や50音を早く言うなど |
図形の記憶 | 視覚記憶 | 1組の抽象的な模様を提示した後、もっと数の多い模様の中から同じものを選択 |
論理的記憶I | 言語記憶 | 検査者が受験者に物語を読んで聞かせた後にその物語を話す |
視覚性対連合I | 視覚記憶 | 10秒間提示された簡単な幾何学図形を描く |
言語性対連合I | 言語記憶 | 容易な対語4つと困難な対語4つを記憶し反復 |
視覚性再生I | 視覚記憶 | 複数の図形を10秒提示し書き写す |
数唱 | 注意集中 | 3~8桁の数字の順唱、2~7桁の数字の逆唱 |
視覚性記憶範囲 | 注意集中 | 8桁のカードに触れた順番を記憶 |
論理的記憶Ⅱ | 遅延再生 | 物語の遅延再生 |
視覚性対連合Ⅱ | 遅延再生 | 図形の組み合わせの遅延再生 |
言語性対連合Ⅱ | 遅延再生 | 言語ペアの遅延再生 |
視覚性再生Ⅱ | 遅延再生 | 図形の書きだしの遅延再生 |
RBMT(リバーミード行動記憶検査)
RBMT(Rivermead Behavioural Memory Test)は、オックスフォード大学のリバーミードリハビリテーションセンターで開発されたことによります。
以下のように、日常生活に近い状況で検査する点に特徴があります。
持ち物:被験者の持ち物を預り、他の検査終了後に思い出させて返却を要求させる
約束:最初に約束事と答えを決め、20分後にアラームが鳴るようにセットし、鳴ったら決められた質問する
絵:絵を見せ、時間を置いてから内容を質問する
物語:短い物語を聞かせ、直後と時間経過後に2回物語の内容を再生
顔写真:顔写真を見せ、どれが正しい顔写真か答えさせる
道順:部屋の中で施験者が道順をたどって見せ、時間を置いて被験者が正しい道順を辿れるか
用件:「道順」を辿る際に設定される要件を記憶させ、要件が実行されるかチェックする
見当識:日付、場所、年齢等を質問する
上記の結果から、スクリーニング点と標準プロフィール点を算出します。
標準プロフィール得点は日常生活における障害の度合い、スクリーニング得点は記憶障害全般を評価することができます。
以下の表のように年齢ごとにカットオフ得点が定められており、例えば39歳以下の人であれば、標準プロフィール得点が19点以下であれば記憶障害と評価できます。
年齢 | 標準プロフィール得点 (24点満点) |
スクリーニング得点 (12点満点) |
---|---|---|
39歳以下 | 19/20 | 7/8 |
40~59歳 | 16/17 | 7/8 |
60歳以下 | 15/16 | 5/6 |
過去問
第1回(追試)問61
34歳の男性、会社員。
1年前、バイク事故により頭部を打撲し意識障害がみられたが、3日後に回復した。
後遺症として身体的障害はみられなかった。
受傷から9か月後に復職したが、仕事の能率が悪く、再度休職になった。
現在の検査所見は、以下のとおりである。
順唱6桁、逆唱5桁、リバーミード行動記憶検査標準プロフィール点9点、WAIS-Ⅲ:FIQ82、VIQ86、PIQ78、遂行機能障害症候群の行動評価BADS総プロフィール得点20点、SDSうつ性自己評価尺度総得点30点。
検査所見により示唆される主たる障害として、最も適切なものを1つ選べ。
① 記憶障害
② 知能障害
③ 注意障害
④ 抑うつ障害
⑤ 遂行機能障害
① 記憶障害
これが正解です。リバーミード行動記憶検査標準プロフィール点9点ということは、重度の記憶障害です。
② 知能障害
間違いです。WAIS-ⅢのFIQ82なので知能障害ではありません。
③ 注意障害
間違いです。注意障害があると数唱の成績が悪くなりがちで、「順唱5桁以下、逆唱3桁以下」だと可能性がありますが、事例では「順唱6桁、逆唱5桁」ですので問題ありません。
④ 抑うつ障害
間違いです。SDSうつ性自己評価尺度総得点30点なので問題ありません。
⑤ 遂行機能障害
間違いです。BADSの総プロフィール得点20点(カットオフポイントは11/12)なので問題ありません。
第2回 問139
74歳の女性。
単身生活で、就労はしていない。
最近物忘れがひどいと総合病院の内科を受診した。
内科医から公認心理師に心理的アセスメントの依頼があった。
精神疾患の既往歴はなく、神経学的異常もみられない。
以前から高血圧症を指摘されていたが、現在はコントロールされている。
頭部CT検査で異常はなく、改訂長谷川式簡易知能評価スケールHDS-Rは21点であった。
この時点で公認心理師が行う心理検査として、最も適切なものを1つ選べ。
① CAPS
② CPT
③ MMPI
④ WMS-R
⑤ Y-BOCS
改訂長谷川式簡易知能評価スケールHDS-Rが21点なのでカットオフポイントである20点スレスレで、認知症の可能性も視野に。
① CAPS
間違いです。CAPS(PTSD臨床診断面接尺度)は、PTSDの診断に用いられますが、事例では必要ありません。
② CPT
間違いです。CPT(持続処理課題)は、ADHDの中核症状のうち不注意と衝動性を客観的に評価することができる検査方法ですが、事例では必要ありません。
③ MMPI
間違いです。MMPI(ミネソタ多面的人格目録)は、性格検査ですので、事例では必要ありません。
④ WMS-R
これが正解です。WMS-R(ウェクスラー記憶検査)は、記憶の総合的な検査です。
今回の事例では、改訂長谷川式簡易知能評価スケールHDS-Rが21点なのでカットオフポイントである20点スレスレで、認知症の可能性も視野に入れるとさらに詳しい記憶の検査が必要です。
⑤ Y-BOCS
間違いです。Y-BOCS(エール・ブラウン強迫尺度)は、強迫性障害の強迫観念や強迫行為の臨床的重症度の評価において最も一般的に用いられる方法ですので、今回の事例では必要ありません。
次の記事
次は、高次脳機能の中でも「遂行機能」に関する「遂行機能検査」について。
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