産業医
職場メンタルヘルスのキーパーソンは「産業医」です。
産業医は労働安全衛生法第13条に規定されています。
常時50人以上の労働者を使用する事業場は、産業医を選任しなければならない。
<産業医の職務>
・健康診断、面接指導等の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置、作業環境の維持管理、作業の管理等労働者の健康管理に関すること
・健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること
・労働衛生教育に関すること
・労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置に関すること
産業医は医療行為はできませんので、従業員の怪我を診療したり、ワクチン接種などはできません。
自己保健義務
労働安全衛生法第26条には労働者の「自己保健義務」が規定されています。
つまり、健康診断を受けたり健康の保持増進に努める義務があります。
事業者側には「安全配慮義務」が規定されています(労働契約法第5条)。
健康教育
労働安全衛生法第69条には職場での健康教育の努力義務が規定されています。
事業者は、労働者に対する健康教育及び健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるよう努めなければならない
ストレスチェック制度
ストレスチェック制度は、労働安全衛生法(第66条の10)に基づいて、2015年12月から実施が義務づけられた制度です。
詳しくは以下のページを参照してください。
バーンアウト
バーンアウトはフロイデンバーガー(H.Freudenberger)によって提唱され、これを「極度の身体疲労と感情の枯渇を示す症候群」と定義したのがマスラック(C.Maslach)です。
燃え尽き症候群ですね。
マスラックはMBI(Maslach Burnout Inventory)を開発し、以下の3つを測定します。
・人を人と思わなくなる気持ち(非人格化)
・仕事へのやりがいの低下(個人的達成感の減退)
過去問
第1回 問28
産業保健について、正しいものを1つ選べ。
① 事業場を経営するものを管理監督者という。
② 労働者は自らの健康管理に関する安全配慮義務を負う。
③ ストレスチェック制度は労働者のうつ病の早期発見を目的とした取組である。
④ 常時50人以上の労働者を使用する事業場は、産業医を選任しなければならない。
⑤ 過労死等防止対策推進法における「過労死等」とは、業務における過重な負荷による脳血管疾患又は心臓疾患を原因とする死亡をいう。
①事業場を経営するものを管理監督者という。
間違いです。管理監督者は業務の管理や遂行の監督を行う人のことです、
②労働者は自らの健康管理に関する安全配慮義務を負う。
間違いです。これは使用者の義務です。
③ストレスチェック制度は労働者のうつ病の早期発見を目的とした取組である。
間違いです。早期発見ではなく未然に防ぐこと(一次予防)を目的としています。
④常時50人以上の労働者を使用する事業場は、産業医を選任しなければならない。
これが正解です。
⑤過労死等防止対策推進法における「過労死等」とは、業務における過重な負荷による脳血管疾患又は心臓疾患を原因とする死亡をいう。
間違いです。「過労死等」とは、業務における過重な負荷による脳血管性疾患、若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう(過労死等防止対策推進法第2条)。
第1回 問29
労働者の心の健康の保持増進のための指針の職場における心の健康づくりについて、最も適切なものを1つ選べ。
① 労働者の心の健康は、家庭や個人の問題とは切り離して捉える。
② メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰の支援を行う活動は含まれない。
③ ストレスへの気づきや対処法などに関する教育研修と情報提供とが継続的かつ計画的に実施される。
④ メンタルヘルスに関する情報は、適切な対応に必要な情報が的確に伝達されるように加工せずに提供する。
⑤ 「セルフケア」、「ラインによるケア」及び「事業場外資源によるケア」の3つが継続的かつ計画的に実施される。
① 労働者の心の健康は、家庭や個人の問題とは切り離して捉える。
誤りです。家庭や個人の問題と切り離して捉えてはいけません。
② メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰の支援を行う活動は含まれない。
誤りです。含まれます。
③ ストレスへの気づきや対処法などに関する教育研修と情報提供とが継続的かつ計画的に実施される。
これが正解です。
④ メンタルヘルスに関する情報は、適切な対応に必要な情報が的確に伝達されるように加工せずに提供する。
誤りです。加工します。
⑤ 「セルフケア」、「ラインによるケア」及び「事業場外資源によるケア」の3つが継続的かつ計画的に実施される。
誤りです。「セルフケア」、「ラインによるケア」、「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」及び「事業場外資源によるケア」の「4つのケア」が継続的かつ計画的に行われることが重要とされています。
第2回 問104
労働者の心の健康の保持増進のための指針について、正しいものを1つ選べ。
① 事業者は、職場のメンタルヘルスケアを実施しなければならない。
② 事業者は、事業場以外で労働者の私的な生活に配慮しなければならない。
③ 個人情報保護の観点から、人事労務管理とは異なる部署でのケアが望ましい。
④ 労働者の心の健康問題についてケアを行う場合は、客観的な測定方法に基づかなければならない。
⑤ 事業者は、メンタルヘルスケアを実施するにあたり、事業場の現状とその問題点を明確にし、基本的な計画を策定する必要がある。
① 事業者は、職場のメンタルヘルスケアを実施しなければならない。
誤りです。労働安全衛生法第69条によると「努力義務」になっています。
② 事業者は、事業場以外で労働者の私的な生活に配慮しなければならない。
誤りです。そこまでの義務はありません。
③ 個人情報保護の観点から、人事労務管理とは異なる部署でのケアが望ましい。
誤りです。メンタルヘルスケアは、人事労務管理と連携しなければ適切に進まない場合が多くあります。
④ 労働者の心の健康問題についてケアを行う場合は、客観的な測定方法に基づかなければならない。
誤りです。心の健康に関して客観的な測定方法が確立できていないことが示されています。
⑤ 事業者は、メンタルヘルスケアを実施するにあたり、事業場の現状とその問題点を明確にし、基本的な計画を策定する必要がある。
正しいです。事業者は、「基本的な計画(心の健康づくり計画)」を策定することが求められています。
第3回 問27
事業場における労働者のメンタルヘルスケアについて、正しいものを1つ選べ。
① 労働者は、自己保健義務を負っている。
② 労働者の主治医が中心となって推進する。
③ 人事労務管理スタッフは、関与してはならない。
④ 産業医の中心的な役割は、事業場内で診療を行うことである。
⑤ 対象範囲を、業務に起因するストレスに限定することが大切である。
① 労働者は、自己保健義務を負っている。
正しいです。事業者側に安全配慮義務があるように、労働者側にも自己保健義務があります。
② 労働者の主治医が中心となって推進する。
誤りです。主治医ではなく産業医です。
③ 人事労務管理スタッフは、関与してはならない。
誤りです。人事労務管理スタッフも関与します。
④ 産業医の中心的な役割は、事業場内で診療を行うことである。
誤りです。診療は産業医の業務ではありません。
⑤ 対象範囲を、業務に起因するストレスに限定することが大切である。
誤りです。業務に起因するストレスに限定してはいけません。
第1回 問112
労働者の心の健康の保持増進のための指針において、労働者への教育研修及び情報提供の内容に含まれないものを1つ選べ。
① ストレスへの気づき方
② 職場環境の評価及び改善の方法
③ メンタルヘルスケアに関する事業場の方針
④ ストレス及びメンタルヘルスケアに関する基礎知識
⑤ ストレスの予防、軽減及びストレスへの対処の方法
厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」に規定されている内容としては、選択肢②が含まれません。
第5回 問110
労働安全衛生規則に定められている産業医の職務として、正しいものを1つ選べ。
① 人事評価
② 健康診断の実施
③ 従業員の採用選考
④ 従業員の傷病に対する診療
⑤ 職場におけるワクチン接種の実務
選択肢②が正解です。産業医は医療行為はできませんので、診療やワクチン接種はできません。
第2回 問33
ストレスチェック制度について、正しいものを1つ選べ。
① 事業者は、ストレスチェックの実施者を兼ねることができる。
② 事業者は、面接指導の結果を記録しておかねばならない。
③ 事業者は、労働者の同意がなくても、その検査の結果を把握することができる。
④ 医師による面接指導を実施するにあたり、情報通信機器を用いて行うことは認められていない。
⑤ 事業者は、一定程度以上の心理的な負担が認められる全ての労働者に対し医師による面接指導を行わなくてはならない。
① 事業者は、ストレスチェックの実施者を兼ねることができる。
誤りです。検査を受ける労働者について解雇、昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者は、検査の実施の事務に従事してはならないとされています。
② 事業者は、面接指導の結果を記録しておかねばならない。
正しいです。
③ 事業者は、労働者の同意がなくても、その検査の結果を把握することができる。
誤りです。事業者に内容がわからないように労働者に結果を通知しなければなりません。
④ 医師による面接指導を実施するにあたり、情報通信機器を用いて行うことは認められていない。
誤りです。オンライン面接もOKです。
⑤ 事業者は、一定程度以上の心理的な負担が認められる全ての労働者に対し医師による面接指導を行わなくてはならない。
誤りです。本人が希望した場合に医師による面接指導を行います。
第4回 問101
ストレスチェック制度について最も適切なものを1つ選べ
① 産業医はストレスチェックの実施責任を負う。
② 派遣労働者のストレスチェックの実施義務は、派遣元事業者にある。
③ ストレスチェックの実施にあたり、事前に労働者全員から同意を取る。
④ ストレスチェックは、2年ごとに1回実施することが定められている。
⑤ ストレスチェックの対象は、ストレスチェックを希望した労働者である。
① 産業医はストレスチェックの実施責任を負う。
誤りです。実施責任は事業者にあります。
② 派遣労働者のストレスチェックの実施義務は、派遣元事業者にある。
正しいです。
③ ストレスチェックの実施にあたり、事前に労働者全員から同意を取る。
誤りです。同意を取る必要はなく、個々の労働者が受けないことを選択することができます。
④ ストレスチェックは、2年ごとに1回実施することが定められている。
誤りです。年1回以上の実施が義務です。
⑤ ストレスチェックの対象は、ストレスチェックを希望した労働者である。
誤りです。ストレスチェックの対象者は、50人以上の事業場における継続雇用中の全労働者です(パートや休職者以外)。
第1回(追試)問17
バーンアウトについて、正しいものを1つ選べ。
① バーンアウトの中核的な特徴は不安である。
② バーンアウトが最も多い職種は生産技術職である。
③ バーンアウトを初めて提唱したのはC.Maslachである。
④ バーンアウトした人は他者に対して無関心になりやすい。
⑤ バーンアウトにおける情緒的消耗感とは自分への不信や疑惑が生じる状態を指す。
① バーンアウトの中核的な特徴は不安である。
誤りです。バーンアウトの中核的な特徴は、情緒的消耗感、非人格化、個人的達成感の減退です。
② バーンアウトが最も多い職種は生産技術職である。
誤りです。バーンアウトは対人援助職に多いです。
③ バーンアウトを初めて提唱したのはC.Maslachである。
誤りです。バーンアウトを始めて提唱したのはフロイデンバーガー(H.Freudenberger)です。
④ バーンアウトした人は他者に対して無関心になりやすい。
正しいです。バーンアウトの中核症状の「非人格化」は、人を人とは思わない気持ちです。
この背景には人への無関心があります。
⑤ バーンアウトにおける情緒的消耗感とは自分への不信や疑惑が生じる状態を指す。
誤りです。情緒的消耗感は不信や疑惑とは異なります。
第3回 問63
45歳の男性A、市役所職員。Aは上司の勧めで健康管理室を訪れ、公認心理師Bが対応した。
Aの住む地域は1か月前に地震により被災し、Aの自宅も半壊した。
Aは自宅に居住しながら業務を続け、仮設住宅への入居手続の事務などを担当している。
仮設住宅の設置が進まない中、勤務はしばしば深夜に及び、被災住民から怒りを向けられることも多い。Aは「自分の態度が悪いから住民を怒らせてしまう。自分が我慢すればよい。こんなことで落ち込んでいられない」と語る。その後、Aの上司からBに、Aは笑わなくなり、ぼんやりしていることが多いなど以前と様子が違うという連絡があった。
この時点のBのAへの対応として、最も適切なものを1つ選べ。
① Aの上司にAの担当業務を変更するように助言する。
② Aの所属部署職員を対象として、ロールプレイを用いた研修を企画する。
③ 災害時健康危機管理支援チーム(DHEAT)に情報を提供し、対応を依頼する。
④ Aに1週間程度の年次有給休暇を取得することを勧め、Aの同意を得て上司に情報を提供する。
⑤ Aに健康管理医(産業医)との面接を勧め、Aの同意を得て健康管理医(産業医)に情報を提供する。
選択肢⑤が正解です。バーンアウト状態なので医師につなぐ必要があります。
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