発達障害の検査には、WISC、K-ABC、田中ビネー式知能検査などが用いられますが、ここではADHDやASD専用の検査手法を見ていきましょう。
ADHD(注意欠陥多動性障害)検査
ADHD検査は児童用と成人用に分かれています。
まずは児童用から。
Conners3
1960年代にアメリカのADHD研究者であるキーズ・コナーズ博士(C.K.Conners)が、精神科を受診した青少年の問題を把握することを目的に、両親や学校の先生が記入できる尺度を開発したことをきっかけに作成され、改定を重ねて2008年に「Conners3」が登場しました。
ということで、この評価尺度は本人だけでなく保護者と教師も記入し、保護者110項目、教師115項目、本人99項目で構成されています。
ショートバージョンはそれぞれ41項目で構成されています。
ADHD-RS
ADHD-RS(ADHD-Rating Scale)は、ADHDの診断基準に沿った不注意、多動性‐衝動性に関する自記式18項目を4段階で評価します。
学校版と家庭版に分かれており年齢別に基準となる点数も設定されています。
それぞれの領域ごとに得点を合計して判定し、カットオフ値は性別ごとに設定されています。
Conners3と比較すると圧倒的に項目数が少なく、簡易的な検査には適しています。
ここからは成人用の検査です。
CAARS(コナーズ成人ADHD評価スケール)
CAARS(Conners’Adult ADHD Rating Scales)は、Conners3の成人版です。
自記式(66項目)と観察者評価式(66項目)から成っており、回答に一貫性があるか判別する「矛盾指標」も設けられています。
ASRS(成人ADHD自己記入式症状チェックリスト)
ASRS(Adult ADHD Self-Report Scales)は、自記式18問で構成され、その中でもADHDの診断を最も鋭敏に予測する以下の6問でスクリーニングが行えます。
たった6問でADHDのスクリーニングができる、その奇跡の6問は以下です。
No | この1週間の状態についてお答えください | 全くない | めったにない | 時々 | 頻繁 | 非常に頻繁 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 物事を行うに当たって、難所は乗り越えたのに詰めが甘くて仕上げるのが困難だったことが、どのくらいの頻度でありますか。 | |||||
2 | 計画性を要する作業を行う際に、作業を順序だてるのが困難だったことが、どのくらいの頻度でありますか。 | |||||
3 | 約束やしなければならない用事を忘れたことが、どのくらいの頻度でありますか。 | |||||
4 | じっくりと考える必要のある課題に取り掛かるのを避けたり、遅らせたりすることが、どのくらいの頻度でありますか。 | |||||
5 | 長時間座っていなければならない時に、手足をそわそわと動かしたり、もぞもぞしたりすることが、どのくらいの頻度でありますか。 | |||||
6 | まるで何かに駆り立てられるかのように過度に活動的になったり、何かせずにいられなくなることが、どのくらいの頻度でありますか。 |
CAADID(ADHD診断面接ツール)
CAADID(Conners’ Adult ADHD Diagnostic Interview for DSM-Ⅳ)は、半構造化面接でADHDを診断します。
成人のADHDを診断する際には、現在の症状だけでなく子どもの頃にADHDの症状があったかどうか確認する必要があり、CAADIDでは成人期と小児期の両方における症状によってADHDを診断できるように構成されています。
パートⅡ:「しばしば毎日の活動を忘れてしまう」など成人期と小児期の両方において問題となる症状を臨床家との面接で回答
CPT(持続処理課題)
CPT(Continuous Performance Test)は、ロズボルド(H.E.Rosvold)らによって開発されたADHD等の検査方法です。
ADHDの中核症状のうち「不注意と衝動性」を客観的に評価することができ、画面上に標的刺激が提示されるとキーをクリックする単純な作業を一定時間行うもので、その反応時間や誤反応、無反応を測定し評価します。
このような持続性注意機能の評価によって、ADHDだけでなく脳損傷や軽度認知障害などがわかります。
まとめ
ADHDに関する検査をまとめます。
対象 | 検査名 | 種別 | 手法 |
---|---|---|---|
児童 | Conners3 | 質問紙 | 保護者110項目、教師115項目、本人99項目 |
ADHD-RS | 質問紙 | 自記式18項目(4件法) | |
成人 | ASRS | 質問紙 | 自記式18項目(5件法) |
CAARS | 質問紙 | 自記式66項目、観察者評価式66項目 | |
CAADID | 質問紙&面接法 | 半構造化面接 | |
CPT | 作業検査法 | 画面上に標的刺激が提示されるとキーをクリック |
Aが2回続く「AA」となっていたら「Adult ADHD」=大人のADHD検査です。ASRSは違うけど。ADHD-RSとASRSは「RS」が共通で内容も18項目の簡易検査という点で似ています。
ASD(自閉スペクトラム症)検査
AQ-J
AQ-J(Autism-Spectrum Quotient)は、サイモン・バロン=コーエン(S.Baron-Cohen)やウィールライト・サリー(S.Wheelwright)らによって考案されたASDのスクリーニングテストです。
Jは日本版の意味です。
ASDで特徴的な社会的なコミュニケーションの困難さやこだわりの強さを検査するため、「社会的スキル」「注意の切り替え」「細部への注意」「コミュニケーション」「想像力」の5つの項目を設定し、全50問に4件法で解答していきます。
得点による評価は以下の通りです。
点数(50点満点) | 意味 |
---|---|
33点以上 | 発達障害の可能性が高い |
27~32点 | 発達障害の傾向がある |
26点以下 | 発達障害の傾向はあまりない |
PARS-TR
PARS-TR(Parent-interview ASD Rating Scale-Text Revision)は、親面接式自閉スペクトラム症評定尺度ということで、57項目について検査者が母親等に面接して評価します。
対象は3歳以上で、AQ-J と同じようなスクリーニング検査になります。
ADOS-2
ADOS-2(Autism Diagnostic Observation Schedule Second Edition)は、ASD評価のための半構造化観察検査です。
対象は1歳以上で、標準化された検査用具や質問項目を用いて半構造化された場面を設定し、その場面での行動を評価します。
M-CHAT
M-CHAT(Modified Checklist for Autism in Toddlers)は、ASDのスクリーニング尺度です。
Toddlersというのは「幼児」という意味です。
一部の項目は全国の1歳半健診で必須チェック項目となっており、一部の自治体の健診では悉皆スクリーニングとして活用されています。
1.5~2歳の幼児が対象なので、保護者が記入し評価者が採点を行います。
まとめ
「AQ-J」や「PARS-TR」はスクリーニング検査、「ADOS」はアセスメント等に用いられるということ、M-CHATは幼児限定のスクリーニング検査ですので、
M-CHAT(一次スクリーニング)→AQ、PARS-TR(二次スクリーニング)→ADOS(診断・評価)
の流れで覚えましょう。
対象 | 検査名 | 種別 | 手法 |
---|---|---|---|
児童&成人 | AQ-J | 質問紙 | 自記式50問(4件法) |
3歳以上 | PARS-TR | 面接 | 保護者への半構造化面接 |
1歳以上 | ADOS-2 | 観察検査 | 半構造化場面での観察による評価 |
1.5歳~2歳 | M-CHAT | 質問紙 | 保護者が記入 |
アルファベットの羅列だけでは分かりにくいですが、検査名だけで何の検査かわかるようになりましょう。
過去問
第1回 問11(追試)
知的な遅れがなく、社会性やコミュニケーションを中心とした発達障害が疑われる児童に対して用いる検査として、最も適切なものを1つ選べ。
① ADHD-RS
② ADOS-2
③ M-CHAT
④ Vineland-Ⅱ
⑤ WISC-Ⅳ
知的な遅れがなく、社会性やコミュニケーションを中心とした発達障害ということで、自閉スペクトラム症(ASD)の検査を選びます。
① ADHD-RS
ADHD-RSは、ADHDの評価尺度なので間違いです。
② ADOS-2
これが正解です。ADOS-2は、ASDのための半構造化観察検査です。
③ M-CHAT
M-CHATは、ASDのスクリーニング検査ですが、この問題ではスクリーニング段階は済んでいますので間違いです。
④ Vineland-Ⅱ
Vineland-Ⅱは、発達障害が疑われる児童に対して行うので正しいように思いますが、社会性やコミュニケーションを焦点に検査するADOS-2の方がより適切です。
⑤ WISC-Ⅳ
WISC-Ⅳ(ウェクスラー式知能検査)は、知能検査ですので間違いです。
第3回 問73
25歳の男性A、会社員。
Aは、上司Bと共に社内の相談室に来室した。
入社2年目であるが、仕事をなかなか覚えられず、計画的に進めることも苦手で、Bから繰り返し助言されているという。
Bによれば、同僚にタイミング悪く話しかけたり、他の人にとって当たり前の決まり事に気がつかなかったりすることもあり、職場の中でも煙たがられているという。
会社以外での対人関係で困ることはない。この1か月は早朝覚醒に悩まされ、起床時の気分も優れなかったため、会社を何日か休んだ。
BDI-Ⅱの得点は42点、AQ-Jの得点は35点であり、Y-BOCSの症状評価リストは1項目が該当した。
Aに関する見立てとして、最も適切なものを1つ選べ。
① 軽度抑うつ状態
② 強迫症/強迫性障害
③ 社交不安症/社交不安障害
④ 自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)
① 軽度抑うつ状態
間違いです。BDI-Ⅱの得点は42点というのは重度抑うつ状態です。
14点がカットオフポイントなので42点はかなり高いです。
② 強迫症/強迫性障害
間違いです。Y-BOCSの症状評価リストは1項目が該当とのことなので強迫症/強迫性障害ではありません。
全10項目で各0~4点の40点満点、1項目が該当ということは最大でも4点しかありません。
③ 社交不安症/社交不安障害
間違いです。事例からは社交不安障害は見られません。
LSAS-J(Llebowitz Social Anxiety Scale:リーボヴィッツ社交不安尺度)などで測定します。
④ 自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)
これが正解です。AQ-Jの得点は35点ということは、33点以上なのでASDの傾向が強いです。
第2回 問69
17歳の男子A、高校2年生。Aは、無遅刻無欠席で、いつもきちんとした身なりをしており真面目と評されていた。
ところが、先日、クラスメイトの女子Bの自宅を突然訪ね、「デートに誘っても、いつも『今日は用事があるから、今度またね』と言っているけれど、その今度はいつなんだ」と、Bに対して激昂して大声で怒鳴りつけた。
この経緯を知ったAの両親がAの心理を理解したいとAを連れて心理相談室を訪ねてきた。
Aの心理特性について見立てるためのテストバッテリーに加えるものとして、最も適切なものを1つ選べ。
① AQ-J
② MPI
③ SDS
④ STAI
⑤ TEG
事例を読むと、Aの発言が自閉スペクトラム症の可能性を伺わせます。
① AQ-J
これが正解です。AQ-J(Autism-Spectrum Quotient:自閉スペクトラム指数 日本版)は、自閉スペクトラム症のスクリーニング検査です。
② MPI
間違いです。MPI(Maudsley Personality Inventory:モーズレイ人格目録)は、性格検査です。
外向・内向、神経症的傾向の2次元でしたね。
③ SDS
間違いです。SDS(Self-rating Depression Scale:自己評価式抑うつ性尺度)の目的は、抑うつ傾向の度合いを数値化することによって客観的に判断することです。
④ STAI
間違いです。STAI(State-Trait Anxiety Inventory:状態ー特性不安検査)は、不安検査です。
⑤ TEG
間違いです。TEG(Tokyo University Egogram:東大式エゴグラム)は、質問紙法による性格検査です。
次の記事
次は、発達障害特有の不適応行動に関する「適応行動検査」について。
コメント