緩和ケアの定義
緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、 痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、 苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチです。
緩和ケアは以下のような内容です。
・生命を肯定し、死にゆくことを自然な過程と捉える
・死を早めようとしたり遅らせようとしたりするものではない
・心理的およびスピリチュアルなケアを含む
・患者が最期までできる限り能動的に生きられるように支援する体制を提供する
・患者の病の間も死別後も、家族が対処していけるように支援する体制を提供する
・患者と家族のニーズに応えるためにチームアプローチを活用し、必要に応じて死別後のカウンセリングも行う
・QOLを高める。さらに、病の経過にも良い影響を及ぼす可能性がある
・病の早い時期から化学療法や放射線療法などの生存期間の延長を意図して行われる治療と組み合わせて適応でき、 つらい合併症をよりよく理解し対処するための精査も含む
日本の政策
日本における緩和ケアは、「がん対策基本法」によって推進されています。
2016年「がん対策基本法」改正:緩和ケアについて定義
がん対策基本法 第十条
「がん対策推進基本計画」では、緩和ケアについて「がんと診断された時からの緩和ケアの推進」が重点的に取り組むべき課題として位置付けられています。
がん対策基本法 第十七条
がん緩和ケア
がん緩和ケアで生じやすい症状の一つに「せん妄」があります。
せん妄は、軽度の意識障害下に生じる精神的な混乱あるいは錯乱、引き続く行動異常で、死亡までに70%のがん患者に生じます。
せん妄の中心症状としては以下が示されています。
睡眠・覚醒リズムの障害(夜間不眠と日中傾眠)
短時間内の急激な症状変化(傾眠から興奮へ、興奮から傾眠へ)
短期記憶の障害(数分前のことを覚えていない)
意思決定
アドバンスディレクティブ
アドバンスディレクティブとは、患者の意思決定能力が無くなったときに、延命治療をどうするかなどを患者が事前に選択し、文書あるいは口頭で医師に伝えておくこと
リビングウィル
リビングウィルとは、アドバンスディレクティブを文書で指示したものです。
リビングウィルに法的な規定はありません。
アドバンスケアプランニング
アドバンスケアプランニング(ACP)は、将来の医療及びケアについて、 本人を主体に、そのご家族や近しい人、医療・ ケアチームが、繰り返し話し合いを行い、本人による意思決定を支援するプロセスのことです。
アドバンスディレクティブでは患者が将来を予想することが困難だったり、その時点の選択が今も同じかわかりません。
アドバンスディレクティブへの批判からアドバンスケアプランニングが生まれ、厚生労働省も「人生会議」として進めています。
過去問
第1回 問54
緩和ケアについて、正しいものを2つ選べ。
① 終末期医療への人的資源の重点配備が進められている。
② 精神症状、社会経済的問題、心理的問題及びスピリチュアルな問題の4つを対象にしている。
③ 我が国の緩和ケアは、がん対策基本法とがん対策推進基本計画とによって推進されている。
④ がん診療連携拠点病院における緩和ケアチームは、入院患者のみならず外来患者も対象とする。
⑤ 診療報酬が加算される緩和ケアチームは、精神症状の緩和を担当する。
① 終末期医療への人的資源の重点配備が進められている。
誤りです。進められていません。
② 精神症状、社会経済的問題、心理的問題及びスピリチュアルな問題の4つを対象にしている。
誤りです。身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を対象にしています。
③ 我が国の緩和ケアは、がん対策基本法とがん対策推進基本計画とによって推進されている。
正しいです。がん対策基本法には緩和ケアについて規定されています。
④ がん診療連携拠点病院における緩和ケアチームは、入院患者のみならず外来患者も対象とする。
正しいです。
⑤ 診療報酬が加算される緩和ケアチームは、精神症状の緩和を担当する。
誤りです。身体症状の緩和を担当する常勤医師、精神症状の緩和を担当する常勤医師、緩和ケアの経験を有する専任の常勤看護師、緩和ケアの経験を有する薬剤師の4名から構成されます。
第1回 問66
55 歳の男性。肺癌の終末期で緩和ケアを受けている。
家族によれば、最近苛立ちやすく、性格が変わったという。
夜間はあまり眠らず、昼間に眠っていることが多い。
この患者の状態を評価する項目として、最も優先すべきものを1つ選べ。
① 幻覚
② 不安
③ 意欲低下
④ 見当識障害
⑤ 抑うつ気分
選択肢④が正解です。
がん緩和ケア時のせん妄症状が出ていると考えられ、せん妄は意識レベルの変動と見当識障害を特徴とします。
第2回 問51
緩和ケアにおける家族との関わりについて、正しいものを2つ選べ。
① グリーフケアは家族には行わない。
② リビングウィルの表明には家族の承諾が必要である。
③ 患者の死後、遺族へは励ましの言葉がけが最も有効である。
④ アドバンス・ケア・プランニングに家族も参加することが望ましい。
⑤ レスパイトは家族の看護疲れを緩和するために患者が入院することである。
① グリーフケアは家族には行わない。
誤りです。家族にも行います。
② リビングウィルの表明には家族の承諾が必要である。
誤りです。リビングウィルは法的に規定されたものではありません。
③ 患者の死後、遺族へは励ましの言葉がけが最も有効である。
誤りです。不適切な対応です。
④ アドバンス・ケア・プランニングに家族も参加することが望ましい。
正しいです。
⑤ レスパイトは家族の看護疲れを緩和するために患者が入院することである。
正しいです。
第4回 問35
医療におけるアドバンスケアプランニング(ACP)について誤っているものを1つ選べ。
① 話し合いの内容を文章にまとめ診療録に記録記載しておく。
② 話し合いの構成員の中に親しい友人が含まれることがある。
③ 患者の意思は変化する可能性があるため話し合いは繰り返し行われる。
④ 患者の意思が確認できない場合は担当医療従事者が本人にとって最善の方法を決定する。
⑤ 患者と多職種の医療・介護従事者、家族等の 信頼できる者と 今後の医療・ケアについて十分な話し合いを行うプロセスである。
選択肢④が誤りです。医療従事者が決めるのはおかしいです。
患者の意志が確認できない場合に備えて、本人の意志を推定する者(家族等)を前もって定めておきます。
次の記事
次は、グリーフケアについて。
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