向精神薬
向精神薬は中枢神経に作用し精神機能に影響を及ぼす薬物の総称で、以下の種類があります。
・抗うつ薬(主にうつ病の治療薬)
・抗不安薬(主に神経症の治療薬)
・睡眠薬(主に不眠症の治療薬)
抗精神病薬とは向精神薬の一種なんですね。
抗精神病薬
抗精神病薬の錐体外路系副作用として、以下の4種類の不随意運動を覚えておきましょう。
・急性アカシジア:鎮座不能とも呼ばれ、下肢のムズムズ感、落ち着きのなさなど自覚的な内的不穏症状、及び足踏みをしたり、歩き回ったり
・急性ジストニア:長めの筋肉の収縮で、斜頸、顔面痙攣、書痙など
・遅発性ジスキネジア:舌を突出させたり、口をもぐもぐと動かしたりする動き
遅発性ジスキネジアは、抗精神病薬だけでなくパーキンソン病治療薬などの副作用としても出現します。
抗不安薬&睡眠薬
抗不安薬と睡眠薬の多くは「ベンゾジアゼピン受容体作動薬」という種類に属します。
副作用として、依存、健忘、せん妄、ふらつきなどがあります。
依存を生じやすいという特徴があります。
抗うつ薬
抗うつ薬と言えば「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)」です。
うつ病では脳内のセロトニンなどの神経伝達物質の働きが不調となり、意欲の低下や不安などの症状があらわれます。シナプス前終末から遊離(放出)された神経伝達物質は、自身の受容体へ作用(結合)することで情報が伝達されますが、遊離された神経伝達物質の一部はシナプス前終末へ回収(再取り込み)されてしまいます。そこで「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」はセロトニンの再取り込みを阻害しセロトニンの働きを増強することで抗うつ作用を示します。
副作用として、「賦活症候群」を覚えておきましょう。
さらに、強迫性障害に対する薬物療法としてもSSRIが用いられます。
SSRIはうつ病だけでなく強迫性障害の治療にも使われることを覚えておきましょう。
抗認知症薬
抗認知症薬といえばドネぺジル(商品名アリセプト)しかありませんでしたが、近年ではガランタミン(レミニール)、リバスチグミン(イクセロンパッチ)、メマンチン(メマリー)が追加されました。
ドネぺジルは、コリンエステラーゼ阻害剤の一種であり、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症進行抑制剤として利用されます。
オピオイド
オピオイドとは、アヘン由来のアルカロイドであるモルヒネやその半合成誘導体を指す「オピエート」から派生した用語です。
オピオイドは様々な疾患の痛みを軽減するため、鎮痛薬として用いられます。
副作用として頻度の高い症状は「せん妄」です。
初回通過効果
向精神薬はその成分が血中に溶けて体を巡り、目標臓器である脳に到達し作用します。
経口投与(薬を口から服用)の場合、各臓器で代謝を受けることになり、実際に有効成分が血中に溶け脳に到達する量は少なくなってしまいます。
このような効果を「初回通過効果」といいます。
経静脈的投与(血管より直接)であれば、初回通過効果は小さいです。
まとめ
くすり | 疾患 | 副作用 |
---|---|---|
抗精神病薬 | 統合失調症 | バリズム:手を投げ出すように見える不随意運動 アカシジア:足踏みをしたり歩き回ったり(鎮座不能) ジストニア:斜頸、顔面痙攣、書痙などの不随意運動 ジスキネジア:舌を突出、口をもぐもぐと動かす等の不随意運動 ミオクローヌス:急に物を投げるような動作や急に転倒する等 |
抗うつ薬 ・SSRI |
うつ病 強迫性障害 |
賦活症候群:気分高揚、不眠、不安焦燥、攻撃性や衝動性の亢進 悪心・嘔吐 |
抗不安薬 ・ベンゾジアゼピン系 |
不安障害 | 身体依存 |
気分安定薬 | 躁病 | 眠気、めまい、ふらつき、倦怠・易疲労感、運動失調 |
睡眠薬 | 睡眠障害 | 奇異反応、前向性健忘、反跳性不眠、持ち越し効果 |
抗認知症薬 ・アセチルコリンエステラーゼ阻害薬 |
認知症 | 吐き気や嘔吐、食欲不振、下痢、腹痛など消化器症状 徐脈 |
過去問
第3回 問31
抗精神病薬を長期間投与された患者に多くみられる副作用のうち、舌を突出させたり、口をもぐもぐと動かしたりする動きが特徴的な不随意運動として、正しいものを1つ選べ。
① バリズム
② アカシジア
③ ジストニア
④ ジスキネジア
⑤ ミオクローヌス
① バリズム
誤りです。ギリシャ語で「投げる」を意味する言葉で、手を投げ出すように見える不随意運動です。
② アカシジア
誤りです。アカシジアは鎮座不能とも呼ばれ、下肢のムズムズ感、落ち着きのなさなど自覚的な内的不穏症状、足踏みをしたり歩き回ったりするなど他覚的な運動亢進症状からなります。
③ ジストニア
誤りです。ジストニアは、長めの筋肉の収縮で、斜頸、顔面痙攣、書痙などの不随意運動です。
④ ジスキネジア
これが正解です。
⑤ ミオクローヌス
誤りです。ミオクローヌスは癲癇の症状のようなイメージで、急に物を投げるような動作や立っている状態で急に転倒するなど様々です。
第2回 問116
ベンゾジアゼピン受容体作動薬の副作用として、誤っているものを1つ選べ。
① 依存
② 健忘
③ せん妄
④ ふらつき
⑤ ジストニア
選択肢⑤が誤りです。
第1回 問104
副作用としてアカシジアを最も発現しやすい薬剤について、正しいものを1つ選べ。
① 抗うつ薬
② 抗不安薬
③ 気分安定薬
④ 抗精神病薬
⑤ 抗認知症薬
選択肢④が正解です。
第1回 問55
向精神薬とその副作用の組合せで、正しいものを2つ選べ。
① 抗不安薬 ― 身体依存
② 炭酸リチウム ― 甲状腺機能亢進症
③ 非定型抗精神病薬 ― 体重減少
④ メチルフェニデート ― 食欲亢進
⑤ 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI) ― 賦活症候群
① 抗不安薬 ― 身体依存
正しいです。抗不安薬は長期使用や大量使用により身体依存が生じます。
② 炭酸リチウム ― 甲状腺機能亢進症
誤りです。
③ 非定型抗精神病薬 ― 体重減少
誤りです。体重減少ではなく体重増加です。
抗ヒスタミン作用や抗セロトニン作用による食欲亢進が原因と考えられています。
④ メチルフェニデート ― 食欲亢進
誤りです。メチルフェニデートはADHDなどに処方するコンサータです。
副作用としては、食欲亢進ではなく食欲不良です。
⑤ 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI) ― 賦活症候群
正しいです。賦活性症候群とは抗うつ薬により誘発される中枢刺激症状の総称です。
第1回 問73
26歳の男性。職場の同僚たちの会話が自分へ当てつけられていると訴えて家族とともに来院した。
2か月前から自分の考えが筒抜けになっていると思うようになった。
「いつも見張られているので外出できない」と、周囲を警戒しながら話した。
身体疾患、過度の飲酒及び違法薬物の摂取はない。
この患者に対する治療として、最も適切なものを1つ選べ。
① 抗不安薬
② 気分安定薬
③ 抗精神病薬
④ 対人関係療法
⑤ 認知行動療法
選択肢③が正解です。
第1回 問134
かかりつけの内科医に通院して薬物療法を受けているうつ病の患者を精神科医へ紹介すべき症状として、適切なものを2つ選べ。
① 不眠
② 自殺念慮
③ 体重減少
④ 改善しない抑うつ症状
⑤ 心理的原因による抑うつ症状
選択肢②と④が正解です。
第1回(追試)問57
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の副作用として、適切なものを2つ選べ。
① 心房細動
② 排尿障害
③ 悪心・嘔吐
④ 賦活症候群
⑤ 起立性低血圧
選択肢③と④が正解です。
第1回(追試)問77
36歳の男性A、会社員。
3年ほど前から、外出する際に戸締りやガスの元栓を閉めたかが気になって何回も確認するようになった。
そのため、最近は外出するのに非常に時間がかかる。
また、車を運転しているときに人をひいたのではないかと気になって、頻繁に道路を確かめる。
Aは、これらの行為が不合理なものと認識しており、行為をやめたいと思っているが、やめられない。
そのほかには思考や行動に明らかな異常はなく、就労を継続している。
Aに対する治療法として、適切なものを2つ選べ。
① 行動療法
② 自律訓練法
③ 非定型抗精神病薬
④ ベンゾジアゼピン系抗不安薬
⑤ 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
選択肢①と⑤が正解です。
SSRIといえば「抗うつ薬」ですが、強迫性障害にも用いられます。
第1回(追試)問103
抗精神病薬の錐体外路系副作用として、正しいものを1つ選べ。
① 眠気
② 不整脈
③ 認知機能障害
④ 高プロラクチン血症
⑤ 遅発性ジスキネジア
選択肢⑤が正解です。
第2回 問31
オピオイドの副作用として頻度が高いものを1つ選べ。
① 下痢
② 疼痛
③ 流涎
④ せん妄
⑤ 錐体外路症状
選択肢④が正解です。
第3回 問41
睡眠薬に認められる副作用として、通常はみられないものを1つ選べ。
① 奇異反応
② 前向性健忘
③ 反跳性不眠
④ 持ち越し効果
⑤ 賦活症候群(アクティベーション症候群)
選択肢①~④は睡眠薬の副作用ですが、選択肢⑤はSSRIの副作用ですね。
第3回 問106
向精神薬の薬物動態について、適切なものを2つ選べ。
① 胆汁中に排泄される。
② 主に腎臓で代謝される。
③ 代謝により活性を失う。
④ 薬物の最高血中濃度は、効果発現の指標になる。
⑤ 初回通過効果は、経静脈的投与の際に影響が大きい。
① 胆汁中に排泄される。
正しいです。胆汁中に排泄されるものと尿に排泄されるものがあります。
② 主に腎臓で代謝される。
誤りです。肝臓で代謝されます。
③ 代謝により活性を失う。
正しいです。
④ 薬物の最高血中濃度は、効果発現の指標になる。
誤りです。薬物の効果発現の指標になるのは、有効血中濃度です。
⑤ 初回通過効果は、経静脈的投与の際に影響が大きい。
誤りです。初回通過効果が大きいのは経口投与の場合です。
第3回 問133
高齢者に副作用の少ない睡眠薬として、適切なものを2つ選べ。
① バルビツール酸系薬剤
② フェノチアジン系薬剤
③ オレキシン受容体拮抗薬
④ メラトニン受容体作動薬
⑤ ベンゾジアゼピン受容体作動薬
選択肢③と④が正解です。自然な眠りに関与する脳内物質に近いので副作用は少ないとされています。
第4回 問105
依存を生じやすい薬剤として適切なものを1つ選べ
① 抗認知症薬
② 抗てんかん薬
③ 三環系抗うつ薬
④ 非定型抗精神病薬
⑤ ベンゾジアゼピン系抗不安薬
選択肢⑤が正解です。
抗不安薬の多くは「ベンゾジアゼピン系」です。
第4回 問106
抗認知症薬であるドネペジルが阻害するものとして 適切なものを1つ選べ。
① GABA受容体
② NMDA受容体
③ ドパミントランスポーター
④ アセチルコリンエステラーゼ
⑤ セロトニントランスポーター
① GABA受容体
誤りです。バルビタール系やベンゾジアゼピン系の睡眠薬が作用(作動)する。
② NMDA受容体
誤りです。抗認知症薬であるメマンチンが拮抗(阻害)します。
③ ドパミントランスポーター
誤りです。抗うつ剤のブプロピオンが阻害します。
④ アセチルコリンエステラーゼ
これが正解です。
⑤ セロトニントランスポーター
誤りです。SSRIはセロトニントランスポーターを阻害(セロトニンの再取り込みを阻害)します。
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