社会心理学は、社会環境の中におかれた個人の経験や行動を分析研究する学問です。
個人の行動は「ヒューリスティック」という経験則によって説明され、その中でも非合理的な判断をもたらすものが「認知バイアス」です。
ヒューリスティック
ヒューリスティックとは難しい問題を、カンタンな問題に置き換えて考える思考プロセスです。
ステレオタイプ的な事柄を過大評価して考えるのが代表性ヒューリスティックです。
アンカリング
アンカリング(係留)効果は、先行提示された情報(アンカー)によって、後続提示された情報の判断が歪められる現象です。
例えば、同じ商品でも定価1,000円が500円になっているときと、初めから500円で売られているときとでは、前者の方がお買い得に思えて買いたくなりますね。
認知バイアス
認知バイアスとは、ヒューリスティックによって非合理的な判断をしてしまう心理現象です。
以下のような様々な認知バイアスがあります。
・行為者‐観察者バイアス
・確証バイアス
・自己中心性バイアス
・正常性バイアス
・自己奉仕バイアス
・後知恵バイアス
・楽観バイアス
・ハロー効果
・フレーミング効果
・バンドワゴン効果
・コンコルド効果
・ツァイガルニク効果
・バーナム効果
・ダニング=クルーガー効果
・錯誤相関
・連言錯誤(合接の誤謬)
・透明性錯誤
・計画錯誤
正常性バイアス
正常性バイアスは、自分にとって都合の悪い情報を無視したり過小評価したりする傾向のことです。
例えば豪雨で避難勧告がでたのに、まだ大丈夫と避難しなかったり・・・。
自己奉仕バイアス
自己奉仕バイアスとは、成功したときは自分自身の能力によるものであり、失敗したときは自分ではどうしようもない外的な要因によるものだと思いこむ考え方です。
例えば、試験の点数が良かったときは「自分が努力したから」と考え、点数が悪かったときは「風邪を引いていたから」と考えるようなことです。
後知恵バイアス
後知恵バイアスは、物事が起きたあとで「そうだと思った」などと、そのことが予測可能だったと考える心理的傾向のことです。
試験の結果が出た後ならなんとでも言えますよねー
一貫性バイアス
一貫性バイアスとは、他人の過去の態度や行動が現在もほぼ変わらず近い状態であると思い込むことです。
つまり、ある人物の態度やスタンスが、将来においても一貫性があり不変だと思ってしまうことです。
高校時代の友人が、数十年ぶりに会って性格が大きく変わっていることに驚くことがありますが、これは一貫性バイアスにより他人は変わらないものと思い込んでいるからです。
この世に変わらないものなんてありません。
楽観バイアス&計画錯誤
楽観バイアスは、自分自身の行動や能力などを実情よりも楽観的にとらえ、危険や脅威などを軽視する心的傾向です。
この楽観バイアスによって計画錯誤が起こります。
これは、過去に計画どおりに進まずに失敗した経験が繰り返しあったとしても、新たな計画を立てる際に楽観的な予測をする傾向のことです。
錯誤相関
錯誤相関は、関係のない事象に関係があると思い込んでしまうことです。
例えば、満月の夜には不吉なことが起こるとか、茶柱が立つと良いことが起こるとか、晴れ男とか・・・全て錯誤相関です。
似たようなワードに「疑似相関」がありますが、これは2つの事象に因果関係がないのに、見えない要因(潜伏変数)によって因果関係があるかのようにみえることです。
つまり錯誤相関は相関がない、疑似相関は間接的な相関というイメージです。
錯誤相関と疑似相関は全く違いますので注意しましょう。
連言錯誤(合接の誤謬)
連言錯誤(合接の誤謬)とは、一般的に起こる状況よりももっともらしく思える限定された状況の方が事実らしいと勘違いすることです。
例えば、コンビニで万引きが発生した場合、以下のどちらが確率が高いでしょうか。
①高校生
②近所の高校の不良グループ
なんとなく②のほうがもっともらしいと考えがちですが、確率が高いのは明らかに①です。
①には②も含んでいますから。
この現象は、代表制ヒューリスティックによって、万引きする人のイメージ(ステレオタイプ)と合っている方を選ぶことによって、このような連言錯誤が起こります。
透明性錯誤
透明性錯誤は、「自分の内面を他人に読まれている」という錯覚のことです。
コンコルド効果
コンコルド効果とは、それまで行った投資を惜しんで今後も損失が出るのに投資をやめられないことです。
パチンコをやった人は分かると思いますが、1万円使って当たらなければ、ここまで1万円つぎ込んだんだから続けないともったいないと考えどんどん損失が膨らんでいく経験があると思います。
コンコルド効果という名称は、イギリスとフランスで共同開発が進められた超音波旅客機コンコルドから来ています。
コンコルドは赤字になると見込まれていたにもかかわらず開発が進められ商業的にも成功する見込みのないまま2000年まで運航は継続されました。
開発会社は倒産しました・・・。
皆さんも、ギャンブルをやるときは「ここまで投資したのだからここでやめるともったいない」という思考を捨てましょう。相手の思うつぼです。
ツァイガルニク効果
ツァイガルニク効果は、成功より失敗のほうが記憶に強く残る現象です。
国家試験に合格したらすぐ忘れますが、不合格だったらずーと残ります。
つまり、完成されたものよりも途中で終わったものの方が、強く印象に残るということですね。
テレビCMなどで、「続きはウェブで」と言われたら気になって覚えているということがありますね。
必要な情報を全て盛り込まないことがコツなんですね。
バーナム効果
バーナム効果は、誰にでも当てはまるような曖昧で一般的な内容を、自分に当てはまると捉えてしまう現象です。
占いがいい例ですね。ナムナムと占うで覚えましょう。
ダニング=クルーガー効果
ダニング=クルーガー効果とは、自分のことを過大評価してしまうことです。
うぬぼれですね。
集団の認知バイアス
内集団バイアス&外集団同質性バイアス
内集団バイアスとは、自分の属している集団は他に比べて優れていると思い込む現象です。
自分と同じ会社の人だから優秀だなどと思ってしまうことです。
外集団同質性バイアスは、自分が所属していない集団や組織を多様性が少ないと認識し、ひとまとめにして捉える傾向です。
例えば日本人男性の高齢者がいた場合に、自分の所属しない外の集団に対して「アメリカ人は…」「最近の若者は…」「女ってやつは…」などとステレオタイプに外集団を捉えがちです。
行動経済学
社会心理学は人の「心」を知ろうとする学問でしたが、それをさらに発展させ意思決定の仕組みを分析するのが「行動経済学」です。
例えば、人間の損失回避性を謳ったプロスペクト理論などが有名ですが、認知バイアスやヒューリスティックで出てきた様々なキーワードは、行動経済学の分野でも重要です。
最後に
このような様々な認知バイアスに気付くことは容易ではありませんが、メタ認知を鍛えれば対応することができます。
そのためにマインドフルネスなどが有効ですね。
過去問
第1回 問13
社会的認知のバイアスについて、正しいものを1つ選べ。
① 他者の内面を実際以上に理解していると誤解することを透明性の錯覚<透明性錯誤>という。
② 集団の違いと行動傾向との間に、実際にはない関係があると捉えてしまうことを疑似相関という。
③ 観察者が状況要因を十分に考慮せず、行為者の内的特性を重視する傾向を行為者 − 観察者バイアスという。
④ 自分の成功については内的要因を、自分の失敗については外的要因を重視する傾向を確証バイアスという。
⑤ 人物のある側面を望ましいと判断すると、他の側面も望ましいと判断する傾向を光背効果<ハロー効果>という。
① 他者の内面を実際以上に理解していると誤解することを透明性の錯覚<透明性錯誤>という。
間違いです。透明性錯誤は「自分の内面を他人に読まれている」という錯覚のことです。
② 集団の違いと行動傾向との間に、実際にはない関係があると捉えてしまうことを疑似相関という。
間違いです。これは錯誤相関の内容です。
疑似相関は実際にはない関係があると捉えてしまうことですが、「集団の違いと行動傾向の間に」ではありません。
③ 観察者が状況要因を十分に考慮せず、行為者の内的特性を重視する傾向を行為者 − 観察者バイアスという。
間違いです。行為者-観察者バイアスは、自分が行為者であった時の成功や失敗を外的要因に、自分が観察者であった時の成功や失敗を内的要因に帰属させやすいことです。
他人が試験に落ちたのは努力が足りなかったから、自分が試験に落ちたのは周囲の環境が悪かったからというように。
④ 自分の成功については内的要因を、自分の失敗については外的要因を重視する傾向を確証バイアスという。
間違いです。これは自己奉仕バイアスの説明です。確証バイアスは、自分の意見が正しいことを証明する際に自分の意見が正しい証拠ばかりに着目し、自分の意見に反することには着目しない傾向です。
⑤ 人物のある側面を望ましいと判断すると、他の側面も望ましいと判断する傾向を光背効果<ハロー効果>という。
これが正解です。
次の記事
次は、心理的リアクタンスについて。
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