ここでは、日本で開発された3つの心理療法を見ていきましょう。
日本の文化や風土の影響が色濃くでています。
森田療法
森田療法は、1919年に精神科医の森田正馬(もりたまさたけ)によって創始された神経症に対する精神療法です。
治療対象
森田療法はもともと、強迫性障害、社交不安障害、パニック障害、広場恐怖症、全般性不安障害、心気症、身体表現性障害など、かつて神経症と呼ばれていた疾患を対象としていました。
しかし近年では、神経症に限らず慢性うつ病や心身症、PTSDやがん患者のメンタルヘルスなどにも利用されています。
神経症関連の様々な病名が並んでいますが、これらの背後にある共通の「神経質な性格」に基づいて「とらわれ規制」という心理メカニズムが症状を引き起こすと考えます。
「神経質な性格」とは内向的、自己内省的、小心、過敏、心配性、完全主義、理想主義、負けず嫌い等です。
「とらわれ機制」とは何か、見ていきましょう。
2つの「とらわれ機制」
精神交互作用
森田療法では、自分の症状を過度に気にする性格特性を「ヒポコンドリー性基調」と呼んでいます。
そのような性格の人は、自分の症状に過度に集中するので、それらの症状がより鋭敏に感じられるようになり、さらに余計に症状が気になり・・・と悪循環し、これを「精神交互作用」と呼んでいます。
例えば、緊張してはいけない場面で「緊張しないように」と考えすぎると逆にますます緊張してしまいます。
赤面症の人は、人前で顔が赤くならないようにと考えれば考えるほど、ますます赤面してしまいます。
このような注意と感覚の悪循環のことを「精神交互作用」と呼び、パニック発作を生ずる心理的メカニズムもこの機制によって説明できます。
思想の矛盾
神経質性格の人は不安や恐怖などの感情や身体の感覚を「こうあるべき」「こうあってはならない」という思考によってコントロールしようとする傾向が強いです。
赤面症の人は、人前で赤面することが恥ずかしいとか不甲斐ないと考えてしまいがちです。
このように自己の不安や恐怖の感情を無理に排除しようとする「とらわれ」があります。
森田療法ではこのような「とらわれ」から脱して「あるがまま」を受け入れることを重視します。
不安や恐怖を排除しようとせず、そのままにしておく態度を養うのです。
治療過程
森田療法の入院治療は、以下の4期(病態によって1~3カ月)に分かれています。
絶対臥褥期
最初の約1週間、患者を個室に隔離し、食事や排便以外は何もせずに横になって過ごします。
きついよね・・・
臥褥中の精神状態を診断材料にするのと同時に、安静によって心身の疲労を調整します。
横になっていると浮かんでくる様々な考えや感情をあるがまま受け入れます。
「あるがまま」と言えば、第三世代の認知行動療法である「マインドフルネス」もそうでしたね。
軽作業期
1~2週間、対人交流は禁止のまま隔離を持続しますが、臥褥は1日7~8時間に制限され、それ以外の時間は起床します。
昼間は戸外に出て空気と日光に触れますが、無意味に散歩する等はやりません。
作業期
対人交流は禁止ですが、庭造り、大工仕事、手芸など、やや重い作業を行います。
社会復帰期
1~2週間の生活訓練が行われ、必要に応じて外出もします。
退院準備のため、病院から学校や職場に通うこともあります。
これ、ホントにきついよね・・・
内観療法
内観療法は、吉本伊信らが1940年代に開発し、「身調べ」という浄土真宗の修行法をもとに1960年代から医療へ応用した治療法です。
「悟り」を開くことを目的とし、いかなる境遇にあっても感謝報恩の気持ちで幸せに暮らせるようになることを目指します。
「悟り」とは知らなかったことに気付くことです。
治療過程
「身調べ」とはどんなものか、見ていきましょう。
集中内観
内観療法には集中内観と日常内観があり、メインは集中内観です。
集中内観では、内観研修所などに1週間宿泊して行われます。
内観についての説明を受け、静かな個室や広い部屋の隅に屏風を立てて空間を区切り、楽な姿勢で座ります。
そこで1日約15時間、1~2時間おきに指導者による面接(約5分)を挟みながら以下の「内観三項目」を考えていきます。
この1週間はテレビや新聞といった外的な刺激からは離れ、日常的な会話も厳禁です。
・お世話いただいたこと
・して返したこと
・ご迷惑かけたこと
まずは母親から始め、父親、兄弟、配偶者、子ども、友人など、自分と関わりのあるさまざまな人に対して、自分はどうであったかを調べていきます。
朝6時から夜9時まで、トイレやフロの時間も1分1秒を惜しんで内観します。
これも、きついよね・・・
日常内観
日常内観では、集中内観での気づきが日常で見えなくならないよう、日常的に内観を行います。
やり方は集中内観と同じですが、指導者はいません。
日常に戻ったら、続けにくいよね・・・
動作法
動作法は、動作を通して心理的問題を改善する心理療法で、成瀬悟策が脳性まひ児の動作不自由を改善する手立てとして開発しました。
言葉ではなく「動作」を主に面接の媒体とし、その人の動作には心の在り様が現れると考えます。
治療過程
動作法では、肩を上げる、下げる、踏みしめて立つといった動作を行います。
その中で体の感じを実感し、動作を変えていく工夫や試行錯誤をしながら、うまくいかなくなっている自分の在り様を変えていきます。
このように動作法では「動作」が中心なので、心理的な問題の内容や意味を心理療法の展開の主な要因としては扱いません。
効果
動作法によって、自己存在感や肯定感、安定感や自信をもって取り組める感じなどがしばしば体験されます。
動作法は、ほどよい緊張感をもって日常生活に対応できるように援助する技法であり、幅広い主訴に対応して適用されています。
まとめ
日本独自の心理療法を見てきましたが、日本で生まれただけあって日本の精神風土に合った療法になっていると思います。
日本の「禅」や仏教に通じるところがあり、第三世代の認知行動療法「マインドフルネス」にもあった「あるがまま」というキーワードも想起されます。
森田療法は第三世代の認知行動療法と酷似ていますね。マインドフルネスのアクセプタンス・コミットメントセラピーとそっくりです。しかも認知行動療法よりも半世紀以上も早く森田療法ができていましたので、認知行動療法の基礎とも言えます。
過去問
第1回 問128
日本で開発された心理療法について、正しいものを2つ選べ。
① 森田療法における入院療法では、最初の約1週間は終日横になったままで過ごす。
② 森田療法では、不安を「あるがままに」受けとめた上で、不安が引き起こす症状の意味や内容を探求していく。
③ 内観療法における集中内観では、指導者を含め他人と一切話をしてはならない。
④ 内観療法では、「してもらったこと」、「して返したこと」、「迷惑をかけたこと」及び「して返したいこと」という4項目のテーマが設定されている。
⑤ 動作法では、心理的な問題の内容や意味を心理療法の展開の主な要因としては扱わない。
① 森田療法における入院療法では、最初の約1週間は終日横になったままで過ごす。
正しいです。森田療法の絶対臥褥期では最初の約1週間は終日横になったままで過ごします。
② 森田療法では、不安を「あるがままに」受けとめた上で、不安が引き起こす症状の意味や内容を探求していく。
間違いです。不安をあるがままに受け止めるので、不安が引き起こす症状の意味や内容を探求したりはしません。
③ 内観療法における集中内観では、指導者を含め他人と一切話をしてはならない。
間違いです。指導者とは話すことができます。
④ 内観療法では、「してもらったこと」、「して返したこと」、「迷惑をかけたこと」及び「して返したいこと」という4項目のテーマが設定されている。
間違いです。「して返したいこと」はテーマ設定されていません。
⑤ 動作法では、心理的な問題の内容や意味を心理療法の展開の主な要因としては扱わない。
正しいです。動作法では動作を行うことが中心です。
第1回 問4
森田療法について、正しいものを1つ選べ。
① 「精神交互作用」の過程を重視する。
② 創始時に多く適用された対象は、統合失調症であった。
③ あるがままに受け入れるアプローチは、「身調べ」に由来する。
④ 原法の絶対臥褥期では、読書は行ってもよいとされる。
⑤ 「ヒポコンドリー性基調」とは、注意が外界に向けられ他者に敏感である状態をいう。
① 「精神交互作用」の過程を重視する。
これが正解です。人は注意と感覚の悪循環(精神交互作用)を起こすことで益々不安になると考えました。
② 創始時に多く適用された対象は、統合失調症であった。
間違いです。森田療法は神経症が対象でした。
③ あるがままに受け入れるアプローチは、「身調べ」に由来する。
間違いです。身調べといえば内観療法です。
④ 原法の絶対臥褥期では、読書は行ってもよいとされる。
間違いです。食事・洗面・トイレ以外はダメです。
⑤ 「ヒポコンドリー性基調」とは、注意が外界に向けられ他者に敏感である状態をいう。
間違いです。ヒポコンドリー性基調はいたずらに病苦を気にする精神的基調のことです。
不安・恐怖・緊張など不快な感情や症状に対して過度に注意を向け、それにとらわれるタイプです。
次の記事
次は、「精神力動療法」です。
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