心理的アセスメントとは、面接や観察、心理検査等を通してクライエントを様々な視点からとらえ、クライエントが抱えている問題を理解することです。
面接法
アセスメント面接
初回面接では非構造化面接が用いられますが、アセスメント面接では構造化面接が実施されます。
必要十分な情報収集という目的がありますので、構造化面接で事前に質問内容などを明確化し面接に臨みます。
アセスメント面接は、治療面接の前段階ですね。
心理面接の形や技法については以下の記事を参照してください。
観察法
日誌法
日誌法は、共に生活する者などに対して日誌のように日常を観察する手法です。
乳幼児期の発達研究で用いられることが多いです。
行動描写法
行動描写法は、その状況で生じている全ての行動を時間的な流れに沿って自由記述する方法です。
行動目録法
行動目録法は、観察したい行動や起こりそうな行動のカテゴリーを作成し、その行動が生起した度にチェックを行う方法です。
場面見本法
場面見本法は、ある行動が生起しそうな場面などを選択し、その場面での行動を観察する方法です。
関与しながらの観察
「関与しながらの観察」は、サリヴァン(H.S.Sullivan)が提唱しています。
サリヴァンは新フロイト派と呼ばれる精神分析学派に属し、治療における患者と治療者の関係性を重視しています。
社会福祉士国家試験の勉強をされた方は、フィールドワークの「参与観察」を思い出されたでしょう。ほぼ同じ概念です。
サリヴァンの考えは以下のようなものです。
・精神科医は面接の中で起こる事態のすべてに深く巻き込まれ、そこから逃れられない。
・面接場面において、セラピストは客観的にクライエントを観察することはできない。
・セラピストのクライエントへの働きかけが、クライエントの言動に影響している。
・精神科医の主要観察道具は、その自己である。
サリヴァンの考え方のポイントは、セラピストの働きかけがクライエントの言動に影響し、セラピスト自身もクライエントに影響されるので、客観的・中立的にクライエントを観察することはできないということです。このような観察におけるセラピストとクライエントの相互作用を唱えています。
サリヴァンといえば、この「関与しながらの観察」に加えて、「チャム・グループ」を覚えておきましょう。チャム・グループとは、前青年期の互いの同質性を特徴とする仲間関係です。
その前には児童期後期に遊びを中心に8人程度の集団からなる閉鎖性の高い「ギャング・グループ」があります。青年期以降の友人関係は「ピア・グループ」と言います。
インフォームドコンセント
心理的アセスメントにおいてもインフォームドコンセントは重要です。
被検査者に説明する際には被検査者が理解できるような言葉に噛み砕いて情報を伝えます。
伝える内容は、情報がどのように心理的支援に活用されるか等を説明します。
被検査者が幼い(判断能力が低い)場合には保護者に情報提供をします。
過去問
第1回(追試)問13
心理アセスメントにあたっての基本的な情報の収集方法として、最も適切なものを1つ選べ。
① ワンウェイミラーの行動観察はアセスメントに必要である。
② 生育歴の聴取はアセスメントの基本となるため、初回面接で行う。
③ 心理検査は一定の状況設定で行うため、得られた情報は客観的で信頼できる。
④ アセスメントは面接でクライエントのニーズや来談経緯を聞くことから始まる。
⑤ 家族関係把握のためのジェノグラム作成には動的家族画や合同家族画が役立つ。
① ワンウェイミラーの行動観察はアセスメントに必要である。
間違いです。ワンウェイミラーとはマジックミラーのことです。
実施される場合もありますが、必要とは言えません。
② 生育歴の聴取はアセスメントの基本となるため、初回面接で行う。
間違いです。初回面接で重要なのは、情報収集とラポールの形成ですが、生育歴をいきなり聴取するとクライエントが疑問に思ったりラポール形成の妨げになる可能性があります。
③ 心理検査は一定の状況設定で行うため、得られた情報は客観的で信頼できる。
間違いです。客観的で信頼できるというよりは、心理検査を実施したその日の状況を表すものと捉えるのが適切です。
④ アセスメントは面接でクライエントのニーズや来談経緯を聞くことから始まる。
適切です。
⑤ 家族関係把握のためのジェノグラム作成には動的家族画や合同家族画が役立つ。
動的家族画は、家族が何か動作をしているところを描いてもらいます。
合同家族画は、クライエント本人だけでなく家族が共同で家族画を描きます。
これらがジェノグラム(家系図)の作成に役立つということはありません。
第1回(追試)問34
心理アセスメントについて、不適切なものを1つ選べ。
① アセスメント面接では構造化されていない自由面接を用いる。
② アセスメント面接は一般に治療的面接を開始する前に行われる。
③ クライエントのリソースや強みなど肯定的心理的特徴も見定める。
④ クライエントの問題を包括的に捉えるためにテストバッテリーを組む。
⑤ クライエントの許可を得たうえで、必要に応じて関係者から情報を収集する。
① アセスメント面接では構造化されていない自由面接を用いる。
不適切なのでこれが正解です。アセスメント面接では構造化面接を用います。
② アセスメント面接は一般に治療的面接を開始する前に行われる。
適切です。
③ クライエントのリソースや強みなど肯定的心理的特徴も見定める。
適切です。
④ クライエントの問題を包括的に捉えるためにテストバッテリーを組む。
適切です。
⑤ クライエントの許可を得たうえで、必要に応じて関係者から情報を収集する。
適切です。
第5回 問94
心理的アセスメントに関する説明として、最も適切なものを1つ選べ。
① 心理的側面だけでなく、環境を評価することも重要である。
② クライエントが物語を作る心理検査全般をナラティブ・アプローチという。
③ 医師の診断補助として行う際は、客観的な心理検査のデータだけを医師に伝える。
④ 目的は、初期に援助方針を立てることであり、終結の判断材料とすることは含まない。
⑤ テスト・バッテリーでは、検査者が一部のテストに習熟していないくても、他のテストによって補完できる。
選択肢①が正解です。
第3回 問38
インテーク面接におけるアセスメントについて、不適切なものを1つ選べ。
① クライエントの生活における適応状態を確認する。
② 支援を受けることについての動機づけを確認する。
③ クライエントの問題に関連する情報を初回で漏れなく収集する。
④ 客観的な情報収集に努めながら、クライエントの語りを共感的に聴く。
⑤ クライエントの問題の心理的要因だけではなく、生物的要因や社会的要因についても評価する。
選択肢③が正解です。
初回でクライエントの情報全てを収集するのは無理です。
第4回 問113
心理的アセスメントにおけるインフォームドコンセントの説明として不適切なものを1つ選べ。
① 被検査者が幼い場合には保護者に情報提供をする。
② 検査をいつでも途中でやめることができることを伝える。
③ 検査がどのように心理的支援に活用されるかについて説明する。
④ 心理的支援に否定的な影響が想定される場合、検査の性質の一部を伏せて実施する。
⑤ 被検査者に説明する際には被検査者が理解できるような言葉に噛み砕いて情報を伝える。
選択肢④が不適切です。不適切なものを選ぶ問題は易しいです。
第2回 問17
治療者自身が相互作用に影響を与えることを含め、治療者とクライエントの間で起きていることに十分注意を払うことを何というか、最も適切なものを1つ選べ。
① 自己開示の活用
② 治療同盟の確立
③ 応用行動分析の適用
④ 関与しながらの観察
⑤ 自動思考への気づき
① 自己開示の活用
間違いです。自己開示は面接技法の中でも積極技法の一種で、自身のプライベートな内容をクライエントに伝えることです。
② 治療同盟の確立
間違いです。治療同盟(作業同盟)は、転移・逆転移に巻き込まれずに治療を続けられるクライエントと治療者の関係のことです。
③ 応用行動分析の適用
間違いです。応用行動分析は、人間の行動の因果関係を客観的に捉えようとする方法論です。
④ 関与しながらの観察
これが正解です。
⑤ 自動思考への気づき
間違いです。自動思考は認知療法の概念で、自動的に浮かび上がってくる「思考のクセ」です。
第1回 問44
H.S.Sullivanによる「関与しながらの観察」という概念について、最も適切なものを1つ選べ。
① 治療面接では、感情に流されず客観性及び中立性を維持することが重要である。
② 他者の行動を理解するには、面接に参加している自己を道具として利用する必要がある。
③ 面接外のクライエントの行動に関する情報も、面接中に得られる情報と同等に重要である。
④ クライエントとのコミュニケーションを正しく理解するためには、現象のみに目を向けるべきである。
① 治療面接では、感情に流されず客観性及び中立性を維持することが重要である。
間違いです。サリヴァンは「面接場面においてセラピストは客観的にクライエントを観察することはできない」と言っています。
② 他者の行動を理解するには、面接に参加している自己を道具として利用する必要がある。
適切です。サリヴァンはこのように言っています。
③ 面接外のクライエントの行動に関する情報も、面接中に得られる情報と同等に重要である。
間違いです。一般的には正しいですが、「関与しながらの観察」では触れられていません。
④ クライエントとのコミュニケーションを正しく理解するためには、現象のみに目を向けるべきである。
間違いです。「関与しながらの観察」では触れられていません。
第1回(追試)問14
「関与しながらの観察」について、最も適切なものを1つ選べ。
① 関与も観察もともに観察者だけが行うことである。
② H.S.Sullivan が提唱した実験的観察法に関する概念である。
③ 関与と観察は不可分のものであるため、観察者は中立的に参加しながら観察を行う。
④ 観察者は現象に人為的な操作を加え、条件を統制したり関与したりしながら観察を行う。
⑤ 観察者は自身が1つの道具としての性質を持っており、自らの存在の影響を排除できない。
① 関与も観察もともに観察者だけが行うことである。
間違いです。観察者だけではなく、セラピストとクライエントの相互作用を重視します。
② H.S.Sullivanが提唱した実験的観察法に関する概念である。
間違いです。サリヴァンが提唱したというのは正しいですが、実験的観察法ではありません。
③ 関与と観察は不可分のものであるため、観察者は中立的に参加しながら観察を行う。
間違いです。中立的に参加することはできないというのがサリヴァンの考えです。
④ 観察者は現象に人為的な操作を加え、条件を統制したり関与したりしながら観察を行う。
間違いです。これは実験的観察法の説明です。
⑤ 観察者は自身が1つの道具としての性質を持っており、自らの存在の影響を排除できない。
これが正解です。
第4回 問17
H.S.Sullivan の”関与しながらの観察”を深めていくために必要なことについて最も適切なものを1つ選べ。
① 自分の中立的な立ち位置が揺れ動かないよう努めること。
② 自分のその場での言動と関係づけてクライアントの反応を捉えること。
③ 自分の主観に現れてくるイメージを基にしてクライエント理解を進めること。
④ 観察の精度を高める道具として標準化された検査の導入を積極的に進めること。
⑤ これまでのやり取りの流れから切り離して今ここのクライアントの感情を理解すること。
① 自分の中立的な立ち位置が揺れ動かないよう努めること。
間違いです。サリヴァンの考え方は、中立的な立場での観察などありえないというものでした。
② 自分のその場での言動と関係づけて クライアントの反応を捉えること。
これが正解です。セラピストの言動がクライエントの言動に影響を与えていることを認識せよとのことでした。
③ 自分の主観に現れてくるイメージを基にしてクライエント理解を進めること。
間違いです。主観に現れてくるイメージを基にしてはいけません。
④ 観察の精度を高める道具として標準化された検査の導入を積極的に進めること。
間違いです。サリヴァンの考えとは違います。
⑤ これまでのやり取りの流れから切り離して今ここのクライアントの感情を理解すること。
間違いです。これまでのやり取りの流れから切り離してはいけません。
第5回 問92
H.S.Sullivan の関与しながらの観察の説明として、最も適切なものを1つ選べ。
① 支援者と要支援者双方の相互作用の中で共有される治療構造のことである。
② 要支援者との関わりにおいて生じる、共感不全に注目した観察を基本とする。
③ 支援者は、要支援者との関係で生じる事態に巻き込まれざるを得ないという認識を前提とする。
④ 支援者が要支援者に対し、問題行動を修正する介入を行い、その効果を観察し分析することである。
⑤ 投影同一化によって要支援者から投げ込まれたものとして、支援者が事故の逆転移を観察することである。
選択肢③が正解です。
第1回(追試)問81
心理学研究における観察法について、最も適切なものを1つ選べ。
① 生態学的妥当性が低い。
② 因果関係を見い出すのに適している。
③ 観察者のバイアスが入り込みやすい。
④ 目的に関連する言動だけを効率的に取り出し定量化できる。
⑤ 現象をあるがまま見ることを基本とし、状況に手を加えない。
① 生態学的妥当性が低い。
間違いです。生態学的妥当性とは、観察対象の「いつも通りの姿」を観察できているかどうかということ。ライオンならサバンナで観察するとか。
② 因果関係を見い出すのに適している。
間違いです。観察法では様々な要因が入り込んでくるので因果関係を見出すことは難しいです。
ランダム化比較試験のような状況は作り出せません。
③ 観察者のバイアスが入り込みやすい。
これが正解です。観察者が直接関わるので、観察者のバイアスが入り込みやすいです。
④ 目的に関連する言動だけを効率的に取り出し定量化できる。
間違いです。観察法は質的調査ですので心理検査のように定量化するのは容易ではありません。
⑤ 現象をあるがまま見ることを基本とし、状況に手を加えない。
間違いです。状況に手を加えないことはありません。
第1回 問83
観察法において、観察対象者に起こりそうな行動の一覧表を用意し、観察結果を記録する方法として、正しいものを1つ選べ。
① 日誌法
② 行動描写法
③ 行動目録法
④ 場面見本法
⑤ トランスクリプト
選択肢③が正解です。
行動目録法は、事前に観察したい行動や起こりそうな行動の一覧表を作成し、その行動が生起した度にチェックを行う方法です。行動の生起頻度を調べるのに適しています。トランスクリプトは文字起こしの事です。
第5回 問14
H.S.Sullivan の着想に基づく前青年期における互いの同質性を特徴とする仲間関係として、適切なものを1つ選べ。
① ピア・グループ
② チャム・グループ
③ ギャング・グループ
④ セルフヘルプ・グループ
⑤ エンカウンター・グループ
選択肢②が正解です。
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